第17話 野盗掃討へ
何度も打ち合い剥がれ、木の繊維が剥き出しになった三本の木刀を眺めた。木箱の中に収まっている。
そのうちの一本を掴んだ。
乾いた音を響かせながら木箱から取り出せば、切っ先は鋭さを失いかけていた。
落ち着いた印象の表情で溜息を吐く。
「……」
「ローグ」
野太い声が真夜中の静かな空間に響いた。
「……村長」
「こんな時間にどうした?」
大柄な体に飛び出た肥満のお腹をもつ村長は白い髭をたくわえ、ローグを優しい眼差しで映す。
「あぁいや、少し考え事を」
村長に頭を下げ、ローグは息を多く吐き出しながら話す。
「アイリーンと野盗退治は嫌か?」
「いえ、ただ適材適所というか、デヴィンの方が、そういうのに向いているかと思いまして」
困ったように眉を下げ、ローグは村長の問いに答える。
「誰も復讐をしろなど言っておらん。国からの依頼だ。近隣町や、我々が暮らすこの小さな村を守る為にやればいい」
「……はい」
「デヴィンは血の気が多い。頭に血がのぼっては野盗以下、アイリーンの足を引っ張ることになるだろう。冷静な判断ができるお前がいることで他の奴らも動ける。さぁローグ、今は昼までゆっくり身体を休めろ」
村長の言葉に何度か小さく頷き、
「分かりました」
木刀を木箱に収めた。
「ローグ、ローグ?」
「……あぁ」
山道を歩く途中、ローグは浮かない表情を上げた。
腰にサーベルを携え、急所を守る程度の軽装鎧を身に着けている。
隣には胸当てをつけた金髪碧眼のアイリーンがいた。同じくサーベルを携え、怪訝な顔をしている。
「もうすぐ他の皆と合流するポイントに着くよ。そんな顔しちゃあの世いき確定だね。そんで、デヴィンに怒られる。このクソ野郎って死体になったローグを蹴るかも」
「はは、すまない。考え事ばかりしてた……そうだな、後方のデヴィンにも迷惑をかけちゃダメだ。村の為にも戦おう」
「それにさ、これで野盗を片付けたら王国兵に入れるかもしれないよ」
嬉しそうに笑顔で話すアイリーン。
「どうしてアイリーンは兵になりたいんだ? 家族の仇以外にも理由があるんじゃないか?」
「なに、女が兵になっちゃだめ?」
青い瞳はローグを見つめる。毒のない明るい表情を前にローグは目を逸らした。
「……いや、そういうわけじゃ、ない」
「私ね、有名になりたいの」
アイリーンの穏やかな口調に、ローグは横顔を覗く。
「熊とか寄せ集めの野盗じゃなくて、もっと強い相手と戦って大陸中に知れ渡るぐらい有名になって、それでね」
迷いのない真っ直ぐな瞳でアイリーンは、
「村に帰って、結婚して、子供に自慢する」
将来を短く漏らした。
「そ、そうか……でも、そ、そうなると……」
ローグは口元に手を添えて呟く。最後まで言い切れず、どんどん小さくなっていく。
「ほらローグ、もうみんな集まってる。急ごう!」
アイリーンはローグの背中を叩き、下り坂となった山道を駆け下りていく。その先には町で集められる防具と武器を手にした男達が一〇人ほど、集まっていた。
ローグはサーベルの柄に手を添え、軽く咳払いをしてから、
「落ち着け……俺」
自分自身にそう言い聞かせ、アイリーンの後を追いかけた……――。
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