第309話 鍵の力
聖都にいるはずのルナリア様がなぜかこの場に現れた。
おまけに側近の者は見当たらない。
もしかして……たったひとりで来たっていうのか?
でも、そんなことを周りが許すわけがない。
だが、事実としてルナリア様はエスパルザと対峙するように俺たちの目の前に立っていた。
……そういえば、さっきエスパルザへ「本来いるべき場所」とルナリア様は語っていたけど、あれってどういう意味なんだ?
「奪われた物を取り返すために地獄からよみがえったんだ。執念がそうさせたんだよ」
「あなたがそうなってしまったのは鍵を渡した私の責任……ここで浄化します」
エスパルザの発言――まるで一度死んでよみがえってきたと受け取れるが、まさか本当にそんなことが起こり得るのか?
ルナリア様もそれを前提にした話し方だし、どうも冗談やたとえ話ってレベルじゃない気がする。
そう考えた時、俺の脳裏に浮かんだのはいつか見た絵本の内容だった。
女神からすべての夢を叶える鍵を手に入れた若者が、やがてその力に溺れて破滅していくという話。とても子ども向けとは思えないシビアな中身だったけど、もしかしてあの絵本の内容は――
「し、真実だったのか……?」
エスパルザとルナリア様が、あの絵本に登場する女神と若者に映った。同じく絵本に目を通したミルフィ、イルナ、ジェシカの三人も俺と同じ気持ちらしく、互いに顔を見合わせていた。
「おい、少年」
「えっ?」
いきなりエスパルザが声をかけてきたので思わず声が上ずった。
「おまえも俺のようになりたくなければ鍵を渡せ。そいつはおまえのような子どもの手に余る代物だ」
「いけませんよ、フォルト・ガードナー。あなたは立派にその鍵の力を使いこなしています。――正しい方向で」
「ル、ルナリア様……」
優しく微笑みながら、ルナリア様が告げる。
俺としても、こいつを手放す気はない。
彼らの手伝いをしたい――それが、俺の素直な意見だ。
そのためにも、この鍵をエスパルザに渡すわけにはいかない。
暗く淀んだ瞳を向けるヤツに、俺は言い放つ。
「これは渡さない!」
「そうか。――ならば殺してでも奪うまでだ」
再び攻撃態勢に移るエスパルザ。
だが、
「させないわよ!」
「いい加減にしなさい!」
イルナとウィローズがそれを防ぐ。
さらに、歌の精霊女王であるマシロが歌唱魔法でカウンターを浴びせる。
「ぐっ!?」
強烈な衝撃波となったマシロの歌声にたじろぐエスパルザ。
そこへさらに俺とトーネが同時に攻撃を仕掛ける。
「小賢しい!」
エスパルザは手下たちを吹き飛ばした《大巨人の息吹》で反撃。
さらに剣を抜いていよいよ本気を出してきたようだ。
「なめるなよ、ガキどもが! 鍵を返さないというなら皆殺しだ!」
どこまでも女神の鍵に執着するエスパルザ。
もはやその顔つきはまともな人間のそれではない。
これが……鍵の力に溺れた者の末路なのか。
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