第307話 エスパルザの狙い

 俺たちの前に姿を現した男。

 色白の肌に細身の体……こいつがエスパルザなのか?

 なんか、想像していた見た目とだいぶ違うな。ベクルスがだいぶ厳つい感じだったから同じかそれ以上の偉丈夫だと思っていたのに。


「エ、エスパルザ様……」

「引っ込んでいろ」


 エスパルザはそう呟き、右手をサッと払う。

 目の前を飛ぶ羽虫を追い払うような軽い仕草――だったのだが、次の瞬間、凄まじい衝撃波が彼の周囲にいた兵士たちに襲いかかり、吹き飛ばしていった。


「うわあああああああっ!?」

「ぎゃあああああああっ!?」


 数多の悲鳴とともに、エスパルザが手を振った位置にいた冒険者たちは綺麗サッパリ姿を消す。俺たちは衝撃波が生みだす突風に耐えていたが……あれがこちらに向けられたらひとたまりもない。

 俺自身は破邪の盾で防げたとしても、周りのみんなはそうもいかないぞ。


「い、今の衝撃は……魔法の類?」


 ジェシカはエスパルザの攻撃手段に疑問を抱いていた。

 ――だが、あれは魔法じゃない。

 俺は見たんだ。

 ヤツが右手を振った際、人差し指につけている指輪にはめられた赤い宝石が輝くのを。


「さっきの攻撃はその指輪が生みだしたものだな?」

「ほぉ、よく気づいたな。こいつは【大巨人の息吹】というアイテムでな。レア度で言えば君の持っている龍声剣にこそ劣るが、何かと使い勝手がよくて愛用しているんだ」


 やはり、アイテムの力だったか。

 ヤツは解錠士アンロッカーであると同時に、自ら前線に赴いて戦うタイプのようだ。

 その辺はドン・ガーネスとちょっと違うな。


 エスパルザの暴挙に、他の兵士たちは恐怖を感じて逃げだしてしまう――が、彼はそれを止めることもなく、こちらをジッと見つめていた。

 ……なんだ?

 まったく行動が読めない。

 ドン・ガーネスとは質の違った不気味さがある。

 なんというか、同じ人間とは思えないくらいの異質な存在と対峙している気分になってきた。


「臆して逃げださないあたり、さすがは場数を踏んでいるだけはある。若いのにたいしたものだよ」


 余裕のあらわれか、エスパルザは突然拍手をしながら俺たちを褒めた。

 本当に何なんだ、こいつは。

 

 ――エスパルザはさらにこちらを混乱させるような発言を繰り返した。


「しかし、人の物を盗むという行為はいただけないな。てっきり、聖都のルナリアが肌身離さず持っているものだとばかり思っていたのだが……まさか君のような少年の手にわたっていたとはね」

「えっ?」


 盗んだ?

 人聞きの悪いことを――って、もしかして、


「気づいたか? 勘の良い子だ。――そうだよ。君が首からぶら下げているその鍵はもともと俺の物だ。返してもらうぞ」

「なっ!?」


 女神の鍵がエスパルザの物だって?

 そんなバカなことがあるかよ。

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