第306話 窮地

 ドラゴン形態となったベクルスに対し、俺は苦戦を強いられていた。

 それでも、ここで引くわけにはいかない。


 同じドラゴンの名を持つ龍声剣の力を完全に引きだせれば勝機はあるはずだ。

 

「ひとりで戦おうとする度胸は買うが、相手が悪かったようだな」


 ベクルスはすでに勝利を確信している。

 自身のスピードに俺がまったくついていけていないと分かっているからだ。あのイルナでさえ対処できないくらいだからな……俺では手も足も出ない。


 ――でも、


「…………」


 俺は決意を両手に込めて、龍声剣を力強く握る。

 そして、再び魔力を込め始めた。


「悪あがきだな」


 これに対し、ベクルスは一蹴。またしても大空へ舞い上がり、上空から超スピードでこちらを攻撃するつもりだ。

 俺はそれを正面から迎え撃つ。

 最大限にまで引き上げた魔力で。


「死ねぇ!」


 ベクルスは一直線に急降下してくる。俺としては、狙いがぶれなくなるからその方がありがたい。


「はああああああああああああああああっ!」


 全身をまとう魔力を炎に変えて、龍声剣を構えた。溢れんばかりの炎は渦となり、上空のベクルスを取り囲む。さすがにこれでは突っ込んでくることができず、ヤツの動きが止まった。


「な、なんだ、これは!?」


 まとわりつくような灼熱の炎に焼かれるベクルス。

 本来であれば、ヤツはこの手の攻撃を防げる。しかし、今は飛竜の実の効果で攻撃特化となっているため、それができない状況だった。手を焼かされたアイテムではあるが、意外なところに弱点があったな。

 ――まだ、終わりじゃない。


「もう一撃!」


 ベクルスの周囲を覆う炎はそのままに、今度は属性を雷へと変えた。


「ぐっ!?」


 さすがのベクルスも、次の直撃だけはどうしても避けたいらしく、多少の火傷は覚悟の上で炎の渦の突破を目論む――が、そう簡単に逃がしはしない。

 ふたつの魔法属性を同時に操る。

 これが龍声剣の新たな力。

 今までとは違う感覚だった。


「神器が進化している……?」


 魔法を繰りだしながら、俺はそれを実感する。あらゆる困難を乗り越えられる力がこの剣には宿っているのだ。


「バ、バカなっ!?」


 真っ赤な炎に囲まれ、身動きの取れなくなったベクルス。今なら簡単に照準を合わせられる。


「残念だったな、ベクルス。あんたの野望もここまでだ」


 改めて、俺は雷属性へと変更。

 魔力によって生みだされた稲妻が、ベクルスへと放たれた。


「ぐああああああああっ!?」


 魔法が直撃したと同時に力なく地面へと落下するベクルス。

 

「やったぁ!」


 この光景を見ていたミルフィがそう叫ぶと、他の仲間たちからも一斉に勝利を祝う歓声があがった。一方、ベクルスの部下たちはその場から逃げだそうとする――が、そんな彼らの前にまた別の男が立ちはだかった。


「遅いと思って見に来れば……まさかこのような事態になっていたとは」


 あれは男を目の当たりにした兵士たちは震えあがっている。

 もしかして――あいつがボスのエスパルザなのか!?

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