第302話 現れた者たち

 俺たちを取り囲む謎の存在。

 敵であるのは間違いないのだろうが……問題は相手が誰かという点。


「コソコソとわたくしたちの動向を嗅ぎ回っているようですが……いい加減、堂々と顔をお見せになったらいかがかしら?」


 隠れている者たちも、俺たちが気配を悟ったと気づいているはず――にもかかわらず一向に姿を見せないものだからウィローズが挑発をしておびき出そうとする。


 すると、周囲の物陰から出るわ出るわ……どうやって隠れていたんだよって疑いたくなるくらいの男たちが。武器を手にしているところを見る限り、やはり敵対する者であるというのは分かるのだが――ここで、思わぬ人物と顔を合わせる。


「まさかとは思ったが……本当に全滅させられるとはねぇ」

「っ! ベクルス!」


 現れたのはエスパルザの配下で、俺たちと戦った経験のあるベクルスだった。

 生身の体に見えるが、その強度は凄まじく、生半可な攻撃ではダメージを与えられない厄介なヤツだ。


 これまでの経緯から、ベクルスはエスパルザ一味の中でもボスに近しい存在だと思っていた。だから、今もてっきりエスパルザの近くにいるのだと想定していたのだが……もしかしたら、こちらに向けられている兵力の方が本命なのか?


「少年少女たちがここまでやれるとは……驚く半面、勿体ないという気持ちが湧いてきてしまうなぁ」

「勿体ない?」

「それはそうだろう? ――そんな優秀な君たちをここで葬らなければならないのだからね」


 ヘラヘラしていたベクルスの表情が一瞬にして険しいものと変わる。

 本気になった――非常に分かりやすい変化ではあるが、同時にそれは向こうが追い込まれているともとれる行動だった。


 ベクルスの動きに注意したいところではあるが、先に動いたのは周りを囲む兵士たちであった。

 武器を持ち、これだけの数がいて、おまけに相手は子どもばかり――とくれば、なめてかかられても仕方がない。向こうには俺たちがドン・ガーネスと戦ったという情報は入っているのだろうが、実際に目の前で見ると「勝てるかもしれない」って気持ちが出てくるっぽいな。


 ――当然、その程度の心構えで俺たちに勝てるわけがない。


 襲ってきたエスパルザ配下の兵士たちはことごとく蹴散らされていき、徐々にその数を減らしていく。気がつけば、ベクルスを除くと五人となっていた。


「な、なんて連中だ……」

「これがガキの強さかよ……」


 残った兵士たちはうちやウィローズのパーティーとの実力差を目の当たりにして完全に自信と戦意を失っていた。それでも逃げださないのは……恐らく、彼らの背後に腕を組んで状況を静観するベクルスがいるからだろう。


「いやはや……分かってはいたけど、ここまで差があるとはねぇ」


 現状を把握したベクルスは苦笑いしながらコメカミを指先でなぞる。

 それは本音なのか、それとも予定調和なのか。


 こちらがそれを知る術はないものの、とりあえずこちらが有利になっているのは間違いないだろう。


 だからこそ、ヤツの余裕の態度が気になる。

 あいつひとりで、俺たち全員を相手にしようっていうのか……?

 これは何か裏があると思って警戒をしておいた方がいいだろうな。

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