第301話 頼りになる助っ人

 ここへ来て頼もしい助っ人――ウィローズたちが加わった。

 念のため、複数に別れて辺りを警戒して回りながらこれまでの経緯について彼女から話を聞く。

 最後に会ったのは、あの大図書のダンジョン以来だからそれほど前というわけじゃないけど、なんだか凄く久しぶりな感じがする。


「わたくしたちはあれからさまざまなダンジョンでキャリアを積んできましたが……あなた方も随分とご活躍なさっているそうですわね」

「どうだろうなぁ」

「ふふふ、御謙遜を」


 何気ない会話をする中で、話題は自然と聖女ルナリア様へと移る。


「あなた方がここにいるということは、すでにルナリア様とはお会いになりましたの?」

「まあね」

「でしたら……あなたの鍵との関連について、何かお尋ねに?」


 どうやら、ウィローズも気にかけていたようだ――俺の人生を変えたあの鍵に描かれている女神と、聖女ルナリア様がよく似ているということに。


 それに、ルナリア様の言っていた『鍵を継ぐ者』という言葉も引っかかる。

 俺の脳裏には、かつてバッシュさんが話してくれたおとぎ話の内容が浮かんでいた。


 この女神の鍵のように、万能な力を秘めた鍵を手に入れた青年。

以前は誠実で優しく、そんな青年に女神は恋をしてともに生きていく道を選んだ。

――しかし、やがて青年は鍵の力に溺れ、自らの欲を満たすためだけにその力を振るうようになってしまった。女神は自分のせいで青年が変わってしまったと嘆き、残していた最後の力で鍵を封印する。


 あれは絵本の内容だったけど……小さな子ども向けの絵本にしては救いがなく、後味の悪いものになっている。青年が落ちぶれていく様など、人間の悪しき部分が全面に描かれており、なんとも言えない。


 そういったことにプラスして、作者が亡くなってしまったという経緯から今ではもう市場に出回っていないらしい。

 一応、その話をウィローズにも伝えておいた。


「そのようなおとぎ話は聞いたことがありませんわね」


 ウィローズは周りにいる自分のパーティーメンバーにも尋ねてみたが、やはり誰もその話は知らないという。

 実際、教えてくれたバッシュさん曰く、自分たちの住んでいた国の中でしか売っていなかったって話だから、知らなくても当然だろうな。


 ……あくまでも絵本の内容なので、俺の持つ鍵がその女神によって生みだされた物であるかどうかは分からない。

 

「あの鍵に描かれている女神が本当にルナリア様だとしたら……」

「そ、そんなことあり得るのかしら……」

「ゼロとは言い切れませんね」


 イルナ、ミルフィ、ジェシカの三人がうんうんと唸りながら状況を語る。マシロやトーネは不安げにそんな三人を見つめていた。


 鍵を継ぐ者――ルナリア様がそう言った背景には、鍵の力に溺れて悪事を働くようになった青年がいるのではないか。青年が使っていて封印した鍵を俺が見つけて使っていたから、あんなことを……?


 とりあえず、戻ってルナリア様に真相を尋ねよう。

 そう決意した直後、


「っ! どうやら、このまますんなりとは帰れそうにありませんわね」


 突如、ウィローズが眼光を鋭くしてそう語る。

 そこで俺たちはようやく気づいた――姿こそ隠しているが、かなりの人数が俺たちを取り囲んでいると。

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