第298話 鍵の異変

 俺の人生を変えてくれた奇跡の力――女神の鍵。

 それを入手してから、この聖都へたどり着くまでの間、どのような道を歩んできたかを聖女ルナリア様へ詳細に伝える。


 俺なんかの話を聞いて面白いのかなという疑問はあったが、ルナリア様はとても楽しそうにしていた。

 聞くところによると、ルナリア様は小さな頃からこの大聖堂で暮らしており、外の世界へ憧れを持っているのだという。聖解錠士ホーリー・アンロッカーとしての仕事はあるものの、自由に動き回ることできないので、あちこち旅して回っている俺たちが羨ましいとも言っていた。


 それを聞き、真っ先に反応したのは――


「なら、あなたも一緒に来ればいい」


 意外にもトーネだった。


「えっ? 私も?」

「お、おい、トーネ」


 トーネは純粋な気持ちでそう問いかけているのだろうが……この場でそれはちょっと冒険だな。幸い、周りの教会関係者は何も言ってこないけど、内心ではどう思っているか分からない。


 それはルナリア様も一緒だ。

 さっきまでの会話の様子から、問題ないと踏んでいるが、何が引き金となるか予想がつかない。


 緊張しながらルナリア様の言葉を待っていると、


「そうですね……あなたたちと一緒に行ってみたいですね」


 ルナリア様の口から出たのは――願いだった。

 それは、少なくとも俺の耳には社交辞令に聞こえなかった。ただ、素直に心から湧き出た言葉を口にしている……そんな気がしてならない。


 だから、


「では……いつか世界が平和になったら、俺たちと一緒に旅をしましょう」

「連れて行ってくれるのですか?」

「あなたがよければ」


 聖女と呼ばれる人を連れての冒険――それはきっとめちゃくちゃ大変だろう。

 けど、ここでの時間を通して、もし本当にルナリア様が望むのであれば、一緒に旅をするのも悪くないと思えてきた。


 ――と、その時、


「うわっ!?」


 突然、女神の鍵が眩い光を放つ。


「ちょっ!? 何っ!?」

「どうしたの、フォルト!?」

「わ、分からない!」

 

 イルナやミルフィから追及されるが、俺にも理由は分からなかった。いつもは魔力を注いで使用するのだが、その時よりも光り方が激しい。まるで、何かを訴えかけているような感じさえする。


「その光は……」


 俺たちや教会関係者の動揺を尻目に、ルナリア様は落ち着いていた――というより、何か納得しているような感じさえする。


 しばらくすると光が消え、鍵は元通りとなった。


「い、一体、何だったんだ……」

「女神の鍵が本当の意味であなたの物になったという証ですよ」


 困惑する俺の横で、ルナリア様は淀みなくそう話す。

 そして――



「待っていましたよ……鍵を継ぐ者よ」



 ルナリア様はジッと俺を見据えてそう告げた。

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