第295話 雨と宿屋
ついにエスパルザが動きだした。
聖都では彼らの軍勢に対抗すべく、世界中から名のある
聖騎士団を率いるフォーバート団長は、この戦いを「聖戦」と表現した。
この戦いは……間違いなく、この世界に暮らす
結局、俺たちはしばらく聖都にとどまることとなった。
正直なところ、聖女ルナリア様にお会いして話を聞いたら、そのまま大迷宮のダンジョンへと戻り、霧の旅団へ合流するつもりでいたのだ。
ちなみに、フォーバートさんはその霧の旅団へも使いを送って協力を要請しているらしい。正義感が強く、さらに娘のイルナや俺たちが参加しているとなったら、きっと駆けつけるはず。
「パパたちもここへ来るのよね……」
雨が打ちつける宿屋の窓を見つめながら、イルナが呟く。
霧の旅団の面々……アンヌさんやエリオットさんたちともしばらく会っていなかったからなぁ。再会が楽しみだ。
――しかし、イルナの表情はどこか冴えない。
「何か気になることでもあるの、イルナ」
それに気づいたのは俺だけではなかった。同じく宿屋のロビーに集まっていた他のメンバーもイルナの異変に勘づいており、代表してミルフィが尋ねてみる。
「気になることというか……やっぱり、相手は強いのよね」
「エスパルザという冒険者の実力は未知数ですが、あのドン・ガーネスと肩を並べるほどの人物らしいので、相当な実力者でしょうね」
「やっぱり……」
ジェシカの冷静な分析を耳にしたイルナは、さらに表情を暗くする。
どうやら、霧の旅団の身を案じているようだ。
「大丈夫だよ、イルナ。リカルドさんたちは負けたりしないさ」
「……そうよね」
イルナは「ふぅ」と小さく息を吐くと、いつもの笑顔を見せてくれた。
きっと、心の中ではみんなの力を信じていたのだろう――俺が背中を押したことで、それが確信に変わったようだ。
……実際のところ、エスパルザの軍勢はどれほどなのだろう。
ドン・ガーネスの時は数こそ凄かったけど、実力者と呼べる人はそれほどいなかった記憶がある。
だが、エスパルザの配下はひと味違いそうだ。
特にこの前戦ったベクルスという男――いずれはヤツとも戦うのだろうが、正直どうやって倒したらいいのか、なかなか難しい相手だ。
「それにしても、よく降る雨ですねぇ」
「外に出たい」
イルナが元気を取り戻した後でそう呟いたのはマシロとトーネだった。
今朝から降り続く雨は、まだ止む気配を見せない。
なんだろう……これから聖都が大きく荒れるってことを暗示しているような気がして嫌な気分だ。
このままでいてもしょうがないので、何か気晴らしでもしようと提案を仕掛けた時、ガチャっという音を立てて宿屋のドアが開く。
入ってきたのはフォーバートさんだった。
「よかった。まだいてくれたか」
その口ぶりから、どうやら俺たちを捜していたらしい。
薄っすら汗ばんでいるし……もしかして、何か緊急事態でも起きたのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます