第292話 聖女の暮らす場所

 長い旅路の果てにたどり着いた聖都。

 そこは俺たちの想像を遥かに超えた大都市だった。


 俺たちの旅にとってひとつの終着点であるこの聖都――そこで会おうとしているのは世界最高の解錠士アンロッカーと名高い聖女ルナリア様だ。


 同じ解錠士アンロッカーとして、俺はどうしても彼女に会いたいと思っていた。会って何をするかっていう目的自体は何も決まってはいないのだけど、ひとつは俺の人生を変えてくれた女神の鍵について話を聞くということだ。


 これまで幾度となくピンチを救ってきてくれたこの鍵の正体――もしかしたら、聖女ルナリア様なら何か知っているかもしれない。


はやる気持ちを抑えつつ、俺たちは聖都の中心にある大聖堂を目指した。

詳しい場所は行けば分かると声をかけた商人は教えてくれたけど、きちんと到着できるかちょっと不安だ。


――と、いう俺の心配は一瞬で吹き飛ぶ。


「あれが……大聖堂か……」


 聖都の中心を流れる運河にかかる橋から見える超巨大な建造物。

 まるで空を貫かんばかりの高さ……いや、高さだけでなく、横幅もかなりのサイズだ。こんなに大きな建物はこれまでに見たことがない。


「凄いとは思っていたけど、まさかここまでとはねぇ……」


 イルナそう口にすると、他のみんなも口を半開きにしながら頷いている。そういう反応になるのは仕方ないなって思えるくらい、とにかくめちゃくちゃデカいのだ。


 間違いなく、あれが大聖堂だろう。

 逆に、あれが大聖堂でなかったら何を大聖堂と呼ぶのか――それくらい断言できるほど目の前の建物は立派だったのだ。


「ねぇ、早く行ってみましょうよ!」

「そうですね!」


 珍しく他のメンバーと同じくらいテンションの高いミルフィとジェシカ。こういう場合、基本的に彼女たち以外のメンバーがはしゃぎ気味になり、ふたりはブレーキ役を買うことが多いのだが、今回に限ってはみんなと同じくらいハイテンションだった。


 橋を渡り、賑やかな中央通りを少しそれると路地裏へと出る。そこは華やかさや喧騒とは程遠いが、静かに落ち着いた感じのお店が立ち並んでおり、決してさびれているわけではない。


 いくつか気になるお店もあったので、大聖堂を訪れてから立ち寄ることにしようと計画を立てつつ歩いていると、


「あっ! あったぞ!」


 細い路地から広い通りへ出ると、大聖堂は目の前にあった。

 実に堂々とした雰囲気……聖女様が暮らすために建てられたかのようだ。


 近くには大勢の人が大聖堂を眺めたり、聖女様へ祈りを捧げたりしていた。数も決して少なくはないのだが、騒いでいる者はひとりもおらず、何やら緊張感のようなものさえ漂っている。


「ど、独特の空気ね……」

「あ、ああ……」


 俺とイルナは周囲を眺めた第一印象を口にする。

 異様――とまでは言わないかもしれないが、明らかにここだけ空気が違うのだ。


 ともかく、俺たちは聖女ルナリア様に会うため、大聖堂内へと足を踏み入れていくことにした。

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