第291話 聖都散策

 紆余曲折を経てようやくたどり着いた聖都。

 そこはこれまでに立ち寄ってきたどの町よりも大きく、何より華やかな場所だった。


「す、凄いな……」


 入って早々に圧倒される俺たち。これまで、あまりあちこち移動しなかった者が多いので驚くのは当然かとも思ったが、各地を歩いて回っているはずのイルナでさえも驚きのあまり動けなくなっている。


 すると、


「おいおい、そんなところに突っ立っていると危ないぞ」


 三本角の牛が引く大きな荷車に乗った商人と思われる男性にそう注意を受ける。その時にようやく気づいたのだが――めちゃくちゃ人の往来が激しい。

 ここはまだ中央通りというわけではないのに、これだけの人がいるなんて……聖都は想像を遥かに超える大都市だった。


「と、とりあえず、どうする?」

「あっ……そ、そうだなぁ」


 イルナから尋ねられた俺は答えあぐねていた。

 目的は聖女ルナリアに会うことなのだが……具体的にどこへ行けば会えるのか分からないというのが現状だ。

 以前、ドン・ガーネス討伐の際にお世話となった聖騎士団のフォーバートさんがいてくれたら話は早いのだが、あの人たちも多忙だろうからなかなか現実的ではないな。


「聖女ルナリア様に会おうと思うんだけど……どこにいけば会えるのか」

「町の人に聞いてみましょうか」

「そうだな。まずはそれでいこう」


 ジェシカの提案を受け、俺たちは近くで露店をやっている老人に声をかけてみた。

 

「聖女ルナリア様? それなら大聖堂に行けば会えるよ」

「その大聖堂はどこにあるんですか?」

「聖都の中心じゃ。ルナリア様はあそこで毎日この町の平和を願って祈られていらっしゃる」


 さすがは聖女と呼ばれるだけのことはあるな。

 でも、そんなルナリア様も解錠士アンロッカー――おまけに、その実力はバッシュさんたち名のある宮廷解錠士ロイヤル・アンロッカーが口を揃えて絶賛するほど……同じ解錠士アンロッカーである俺としても、きっといい刺激をもらえるはずだ。


 教えてくれた老人お礼を言ってその場を去ろうとした時――「ちょっと待ちなさい」とその老人に呼びとめられる。


「ひょっとして……君も解錠士アンロッカーか?」

「えっ? えぇ、そうですけど」

「ほぉ……こいつは……」


 俺が解錠士アンロッカーであることを知ると、老人は感心したような声をだす。


「あ、あの、何かありましたか?」

「いや……おまえさんのまとう気配や雰囲気がなんとなくルナリア様に似ておると思ってな」

「ルナリア様に?」


 たまらず俺たちが顔を見合わせる。

 実際に会ったことがないから何とも言えないけど……本当にそうなのか?

 老人の言葉が気になりつつも、聖女ルナリア様がいるという大聖堂を目指して歩きだした。

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