第289話 再出発

 大図書のダンジョンから始まり、ついには精霊界へつながる泉まで足を運んだ俺たち。

 水の精霊王ビセンテにレニーを託し、ふたりが泉を通して精霊界へと帰っていくのを見送ってから、いよいよ聖都へ向けて出発する。


 ――と、その前に、この日は下手に動き回ることはせず、泉近くにテントを張って過ごすことにした。精霊の加護があるためか、この近辺にモンスターの存在を確認できないため、安全に夜を迎えられる。


 最短ルートからは外れてしまったので、俺たちは近くにあった切株に地図を広げて今後の道順を決めていった。


「西側を通っていった方がいいかな?」

「ここはオススメしないわね」

「なぜ?」

「このロゼンという町はとても治安が悪いことで有名なの。まあ、このメンバーなら大抵の相手に勝てるでしょうけど、無用なトラブルは避けたいわね」

「なるほど」


 生まれた時から父親と一緒に冒険者パーティーの一員だったイルナは、こうした情報に精通しているのでとても助かる。


 しかし、そうなると大回りをする必要が出てきたな。

 地図に載っている大きな道だと、あとは北側のルートのみ。

 こちらは西側よりもさらに遠回りとなってしまうが、その代わりに有名な大都市を経由しているので食料やアイテムの補給が行える。

 多少時間はかかるが、こちらの方が安全に進めるな。


「よし。明日からは北側のルートを通って聖都を目指そう」


 俺がそう言うと、みんなも「おーっ!」と元気よく返事をしてくれた。

 さて、明日から長い道のりになる。

 今日は早めに休んで明日に備えるとするか。



  ◇◇◇



 次の日。


 朝霧が立ち込める時間帯に目が覚めた俺は、ひと足先に起き上がってテントの外へ出る。


「うぅ~ん……」


 本日も快晴。

 絶好の旅立ち日和と言える。

 ふと、俺は女神の鍵が気になって取りだしてみる。


「すべては……この鍵を発見したことで始まったんだよなぁ」


 朝日に照らされる鍵を眺めながら、俺は呟いた。

 元パーティーメンバーであるレックスたちのせいで何もかも失い、死にかけていた俺を救ってくれた、まさに命の恩人――いや、恩鍵とでも言えばいいのか。

 ともかく、この女神の鍵がなかったら、俺は今頃あのダンジョンで野垂れ死んでいただろう。

 本当に、人生っていうのは何が起きるか分からない。

 それをこの鍵が教えてくれたよ。


「あら? 早いですね、フォルトさん」


 昔のことを思い出していると、ジェシカが起きてテントから出てきた。


「ジェシカも早いじゃないか」

「なんだか不思議と目が覚めちゃって」

「ははは、俺と一緒か」


 ふたりで笑い合っていると、ミルフィやマシロも起きてきた。

 さて、残りのふたりも起こして朝食を終えたら――いよいよ聖都へ向け、改めて出発するとしよう。

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