第287話 水の精霊王
突如として泉に出現した謎の魔力。
その正体は驚くべきものだった。
「おやおや? 何やら騒がしいので様子を見に来たら……随分と可愛らしいお客様のようだ」
現れたのは成人男性――のはずが、どうにも様子がおかしい。
というか、精霊界とつながっていると思われる泉から出てきたってことは、この人も精霊なのか?
……あまりそれっぽく見えないけど。
「あ、あの、どちら様ですか?」
代表して俺が精霊(?)に声をかける――と、
「これは失礼。自己紹介が遅れましたね。――我が名は水の精霊王ビセンテ!」
突然大声になったと思ったら大袈裟にポーズを決める。
……ちょっと待って。
今この人、精霊王って言った?
「せ、精霊王ってことは……精霊たちの王様!?」
「そこはまあ、あくまでも水の精霊たちのってことで」
急に弱腰になる水の精霊王。
というか、精霊って各属性に王がいるのか。
「話を戻すが、君たちはなぜこの泉に? うっかり迷い込んでしまったという場所ではないし、これほどの大所帯となると最初からここを目指してきたのだろう?」
「え、えぇ……実は、この子のことで」
精霊界を目指す最大の理由――レニーをビセンテの前に連れてくる。
「む? この子はどうやら精霊のようだが……」
「実は……長い間、とあるダンジョンに封じ込められていたんです」
「わ、私、精霊界に戻りたくて!」
「ほぅ……」
涙まじりの訴えを耳にしたビセンテは、腕を組んだまま何事かを思案するように顎へ手を添える。
時間にしておよそ十秒。
その姿勢を保ったあとで、
「よし。では連れていこう」
思いのほかあっさりとレニーを精霊界へ連れて行く決断を下す。
「えっ? あ、あの……」
「あっさりしすぎと言いたいようだが、まあ、彼女が精霊であるというのは間違いないようだし、この手の理由で精霊界に戻れなくなってしまった者たちは彼女以外にも割といるのでね」
なるほど。
前例があったのか。
「それより……君はどうなんだい?」
ビセンテの視線が向けられたのは――マシロだった。
「君も精霊――しかも、私と同じ王の位に匹敵する実力者のようだが……精霊界へ戻る気はないのかい?」
「私はこのままがいいんです。みんなと一緒にいろんな世界を見て回りたいですから」
「ふむ。それもまたひとつの選択肢だろう。人間たちのパーティーに精霊が紛れていることも、珍しいと言えば珍しいが、まったくなしというわけではないからな」
なんとも寛容な王様だな。
――って、今度は俺の方へビセンテが向き直る。
「……やはり、似ているな」
「えっ?」
「ああ、いや、私の知っている人間の少年と君の雰囲気がどこか似ていてね」
「人間の少年……」
「別大陸になるが、彼は精霊も含めたさまざまな種族が一緒に暮らす村の村長でね。機会があれば、会ってみるといい」
「わ、分かりました」
少年村長か……ちょっと会ってみたいな。
聖都までの旅が終わったら別大陸にも足を延ばそうと思っていたし、今後の楽しみのひとつになるな。
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