第285話 誘拐犯、襲来
ついにたどり着いた精霊の里――が、そこに迫る者たちの気配を感じた。
最近になって頻発しているという精霊誘拐事件……もしかしたら、ここへ近づいてくる者たちがその実行犯なのか?
非常事態に備えて臨戦態勢を取っていると――俺の予感は的中した。
「なんだぁ? ガキばっかりじゃねぇか」
現れたのは十人の男たち。
全員が武装し、物々しい雰囲気を醸しだしている。
明らかに、精霊とお友だちになろうとやってきたってわけじゃなさそうな出で立ちだった。
「ここで何をしている? ピクニックか?」
「……あんたたちこそ、精霊の里で何をしているんだ?」
「ほぉ……ここが精霊の里と知っているのか。まあ、そうでなくちゃこんな深くまでやってこないわな」
リーダーと思われる男は頭をバリバリと乱暴にかきつつ、こちらをジロリと睨む。
「どうやら精霊たちに会おうとしているようだが……悪いなぁ。俺たちも精霊たちに用事があるんだよ」
「用事というのは、具体的にどんな?」
「それをおまえらが知る必要はない」
冷めきった視線を向けながら答える男。
周りの者たちは剣を構えて戦闘態勢へと移った。
口にしなくても、「これ以上この場にとどまれば容赦はしない」という男たちのメッセージが込められた言動――だが、当然退くわけにはいかない。
「俺たちも精霊に会わなくちゃいけないんだ。それに……最近は精霊を誘拐する不届き者もいると聞いたし」
「はははっ! 不届き者ときたか!」
一斉に笑いだす男たち。
完全になめられているな。
「あんたらがその誘拐犯なんだろう?」
「誘拐とは穏やかじゃないなぁ……俺たちがやっているのは採集だよ。ほれ、その辺に生えている木の実とか山菜とか採って売ったりするだろう? それと同じだ」
めちゃくちゃ言うな……同じ精霊族であるレニーとマシロは怒りと悲しみで目に涙をためている。
そんなふたりの仲間である俺たちだって――もう我慢の限界だ。
「あんたたちが精霊をこの場からさらっていくというなら、俺たちはそれを全力で食い止める」
「俺たちとやろうっていうのか? ……やれやれ。これだからガキはバカで困る。どう足掻いても勝てるわけがねぇだろ」
「やってみなくちゃ分からないさ」
俺は龍声剣を取りだし、魔力を込めていく。
ここは森の中でもあるため、炎系の魔法はご法度だ。――ならば、風魔法でいく!
「どうした? 剣を抜いたがいいが、ビビっちまったか?」
男たちは動かない俺へ攻撃を絞り込んだ。
「まずはてめぇから殺してやるよ。女たちは俺たちが楽しんだあとに奴隷商にでも引き渡すとするか」
すでに勝った気でいる男たちだが――俺は迫る彼らに向かい、風魔法を発動させる。
「くらえ!」
剣を振った瞬間、突風が巻き起こって男たちへと襲いかかる。
「な、なんだ、これは!?」
強烈な風圧に押し戻されるだけでなく、目には見えない風の刃でボロボロに切り裂かれていく男たち。もちろん、力は加減しているので死ぬことはない。ただ……自分でやっといてなんだけど、めちゃくちゃ痛そうだ。
「「「「「ぐああああああああああああああっ!?」」」」」
男たちの叫び声が響き渡ると、風がやむ。
威勢のよかった男たちはぐったりと倒れて動かなくなったが、うめき声は聞こえているので死んではいないだろう。呆気ない終わりだったな。
「とりあえず、これでいいかな」
剣を戻した直後――強烈な気配を感じて振り返る。
まさか……まだ敵がいたのか?
その視線の先には、ひとりの男性が立っていた。
「いやぁ、お見事ですね」
にこやかに拍手をしながら近づいてくる男性。
綺麗な鎧を装着しているところを見ると、どこかの国の騎士団か?
――って、待てよ。
あの鎧……どこかで見たことがあるような。
「あっ」
思い出した。
聖騎士団の団長を務めるフォーバートさんが着ていたのと同じ鎧だ。
ということは……彼も聖騎士団のメンバーなのか?
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