第283話 怪しい影

 ベクルス。

 肉体の一部を金属に変えており、武器による物理攻撃を無効化していた冒険者だ。


 ……かなりヤバそうな雰囲気をまとう人物だった。たとえるなら、ドン・ガーネス側の人間と思っていた――でも、まさか冒険者たちの間でもっとも罪が重いとされる仲間殺しを実行していたなんて。


 ただ、正直、それくらいのことはやっていてもおかしくはないって感じだったからな。

 特に驚きはしない。


 しかし……そんなベクルスと精霊失踪事件がどう結びつくというのか。


「お主らもしかして……あのベクルスと交戦した経験があるのか?」

「えぇ、まあ。でも、すぐに向こうが撤退していったので、大事には至りませんでしたが」

「最近のあいつは挙動がおかしいって話だったからね。なんだかヤバそうな解錠士アンロッカーと組んでいるって話もあったし……何て名前だったかなぁ?」


 シャディさんの言う、ヤバそうな解錠士アンロッカー……ちょっと前まで、それは俺たちが倒したドン・ガーネスの代名詞だった。

 だが、もうそのドン・ガーネスはいない。

 それでもヤバそうと言われる解錠士アンロッカーといえば、


「もしかして……エスパルザ?」

「っ! そう! その名前よ!」

「よく知っておったのぅ」


 どうやら、ベクルスと絡んでいる解錠士アンロッカーは、聖都騎士団のフォーバートさんから注意するようにも告げられていたエスパルザという男のようだ。


「ドン・ガーネスに比べるとまだそこまで大きな組織ではないようだが……何やら、よからぬことを企んでおるようじゃ」

「彼については、聖都騎士団も警戒しているようです」

「聖都騎士団? 聖女ルナリア様を護衛するというあの……そんなビッグネームにまで目をつけられているなんて、相当厄介な相手みたいね」


 冒険者にとって、解錠士アンロッカーは大切なパートナーだ。

 その立場を悪用し、違法な手段を用いて私腹を肥やしていたドン・ガーネスらの影響により、年々その関係は悪化の一途をたどっていった。


 ヤツを倒したこれから、少しずつ関係は回復していくと見ていいが……エスパルザの存在がネックとなるだろう。あのベクルスという危険な男がエスパルザの側についているとなれば、またどこかで荒れる可能性はあるな。


「冒険者と解錠士アンロッカーのいざこざが世界を巻き込む大戦へとつながる可能性も出てきているというわけか」

「そ、そんな大事に?」

「ならんとも限らんぞ?」


 ランデスさんの目は真剣そのものだった。

 ……できれば、今のまま平穏でいってもらいたいものだけど。


「っと、話が逸れてしまったが、その精霊の失踪事件にベクルスが関与しているという件だが……確かな情報筋によるものだ。君たちがこれから精霊の里を目指すというのなら、十分に気をつけた方がいい」

「は、はい」


 世界を混乱に落としかねない危険な解錠士アンロッカーであるエスパルザと、不穏な気配をまとう冒険者のベクルス。


 このふたり……これからの俺たちの冒険でも、何かと因縁が出て来そうな気がするな。

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