第282話 精霊失踪事件?
ランデスさんたちとの楽しい夜もお開きの時間を迎えようとしていた。
その時、
「そちらの精霊さんたちに少し聞きたい話があるんじゃがな」
酒を飲みまくって頬が赤くなっているランデスさんが指名したのは、マシロとレニーのふたりだった。
「精霊の里を目指す旅の途中らしいが……精霊界に何かがあったのか?」
「いえ、俺たちはレニーを故郷へ連れて帰ろうとしているだけです」
「ほぉ……ということは、おまえさんもさらわれた精霊というわけか」
「さらわれた精霊?」
飛びだした不穏なワードに、俺たちはざわつく。それに気づいたシャディさんが祖父であるランデスに肘打ちを食らわせる。
「な、何をするんじゃ」
「いきなり変なことを言ってフォルトたちを不安にさせないでよ」
「むっ? ――っと、これは申し訳ないことをした」
「いえ、そんな……むしろ、その話をもっと聞きたいです」
精霊がさらわれるなんて穏やかじゃないな。
うちにはレニーがいるし、そもそも常に行動を共にしているマシロだって歌の精霊女王だ。もし、巷で噂の話しが本当だとしたら、うちも警戒しなくちゃいけない。だから、少しでも関連する情報が欲しかった。
俺の言葉に対し、シャディさんは「私たちも詳しい情報を得ているわけではないの」と前置きしてから話を始めた。
「さっき言った通りで、精霊たちが姿を消しているの。まあ、そもそもそんな気軽に人前へ出てくる精霊も少ないんだけど、交流のあった人たちの前からも一斉に姿を消しているから、さらわれたんじゃないかって噂が広まっているのよ」
「な、なるほど」
世間でそういう話題が出ていたっていうのは知らなかったな。
「まあ、誰が狙ってこようが返り討ちにするけどね!」
シャディさんの話を聞いたイルナから、なんとも頼もしい言葉が飛びだす。――ただ、そう思ったのは彼女だけではなかった。
「当然ね」
「必ず守ってみせます!」
「頑張る」
ミルフィ、ジェシカ、トーネの三人もまだ見ぬ精霊誘拐犯に対して闘志を燃やしていた。
「だっはっはっ! 本当に頼もしいのぅ!」
俺たちの決意を前に、ランデスさんは嬉しそうに大笑い――が、すぐにその表情は神妙なものとなった。
「ワシは君たちが気に入った。だから、今回の件で要注意扱いを受けているある男の名前を教えてくぞい」
「えっ?」
精霊失踪事件の最重要人物。
その人物の名前は――
「男の名はベクルス。金のためなら何でもやる危険なヤツでな……冒険者の間でもっとも罪が重いとされる仲間殺しを何度も繰り返している」
「ベクルス……うん?」
その名前――どこかで聞いたような。
「ベ、ベクルスって……脱出不可能とされていたダンジョンであたしたちを襲ってきたヤツじゃない!」
イルナの言葉を聞いてハッと思い出す。
そうだ。
金属の体を持つ、あのベクルスだ。
「ヤツがこの件に関与している……」
とても善人には見えなかったから、驚きは少ないけど……もしかしたら、あの時から精霊であるマシロを狙っていたのかもしれない。
こりゃあ、急いで精霊の里へ向かった方がよさそうだな。
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