第280話 謎の老紳士

「不意打ちと呼ぶにはあまりにも遅い……このジジイの目にもハッキリと捉えられるようでは、まだまだ鍛錬不足のようですな」


「ほっほっほ」と穏やかに笑っている謎の老紳士。

 相手の実力がどれほどのものかは想像がつきにくいけど……ただ、あの老紳士がまったく視界に入っていなかったはずのパンチをあっさりかわしたというにわかには信じられない光景は、鮮明に脳内へと焼きついた。


 うちのパーティーだと、格闘術をもっとも得意とするイルナが一番衝撃を受けたようだった。


「あ、ありえない……完全に不意を突いた攻撃だったのに」


 イルナがこれほど驚愕しているということは、やっぱりさっきの老紳士の一撃は相当凄いもので間違いないのだろう。


 一方、脇腹に強烈な蹴りを受けた冒険者の方は、悶絶して立ち上がれないでいた。

 他の仲間たちも、あれほどの力を見せられては反撃に移る気力もそぎ落とされてしまったようで、「憶えていやがれ!」と負け惜しみを吐き捨てるのが精一杯だった。


「ふぅ……老体にはちときつかったな」


 ガラの悪い冒険者たちが宿を去っていたのを確認すると、老紳士は肩をトントンと叩きながらそう漏らす。

 すると、そこへ宿屋の店主がお礼を言いに現れた。


「あ、ありがとうございました、ランデスさん」

「いやいや、気にする必要はないて――うん?」


 ランデスと呼ばれたその老紳士の視線が俺たちを捉える。 

 途端に、ランデスさんはニコニコと微笑みだした。


「君らがあのドン・ガーネスを倒した噂のパーティーだね?」

「えっ!? ど、どうして!?」


 ひょっとして、ガーネス・シティでの戦いに参加していたのか? 

 あの時はかなりの数の冒険者が参戦してくれたから、正確に全員を把握しきれていなかったからなぁ。


「いや、ただの勘じゃよ」

「…………」


 ま、まあ、それでも一発で見抜いたっていう点ではかなり凄い観察眼を持っていると言っていい――のかな?

 俺たちがランデスさんのハチャメチャぶりに翻弄されていると、


「あっ! リーダー!」

 

 二階から金髪の若い女性が下りてきた。

 彼女はランデスを見てリーダーと言っていたけど……まさか、彼が冒険者パーティーのリーダーだっていうのか?


「下がやけに騒がしいと思ったら……また何かトラブルでも起こしたの?」

「人聞きの悪いことを。ワシは人助けをしとったんじゃ」

「そうです。ランデスさんの言う通りです、シャディさん」

「ふーん……」


 宿屋の店主からもフォローが入ったことで、シャディと呼ばれた女性冒険者は渋々ながらも納得したようだ。

 ――で、ここでも視線が俺たちへ向けられる。


「あら? 随分と若い子たちね」

「聞いて驚くがいい。彼らがあのドン・ガーネスを懲らしめた勇敢な若者たちじゃ」

「っ!? あ、あのドン・ガーネスを……」


 シャディさんに動揺が走る。

 それとは対照的に、ランデスさんは飄々とした態度で俺たちにある提案を持ちかけた。


「ここで会ったのも何かの縁。少し話を聞かせてはくれないか?」

「は、はい」


 こうして、俺たちはランデスさんたちのパーティーと夕食をともにすることとなったのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る