第279話 レダンの町
精霊の里を目指す俺たちの長い旅。
途中で宿泊を挟まなければたどりつけない道のりのため、本日はレダンという町で一泊することに。
で、そのレダンという町だが――非常に素朴でのんびりした町だった。
「いい雰囲気じゃない」
「ホントね」
イルナとミルフィは穏やかな雰囲気漂うレダンの町を気に入ったようだ。他のみんなも気持ちとしては同じようで、辺りを見回しながらどこへ寄っていこうかと盛り上がっている。俺としても、お腹が空いたのでどこかの食堂で飯を食いたいところだ。
――その前に、やるべきことがある。
「まずは今日の拠点となる宿泊地を決めよう」
「そうですね。その方が安心して楽しめるでしょうし」
俺とジェシカの言葉を受けて、全員が宿の存在を思い出してハッとなる。ここまで長い道のりだったから、楽しもうとする気持ちが優先しすぎてすっかり忘れていたようだ。無理もないけど。
特に、精霊のレニーは人間の町に関心が強かった。
もともと、遊ぶことが好きだったみたいだし、こういう賑やかな場所でテンションが上がっているというのもあるんだろうけど……まあ、とにかく、元気になってくれてよかったよ。
その後、俺たちはレダンにある唯一の宿屋へと向かう。
店内に入った直後、
「どういうことだ!」
いきなり怒声が響いた。
見ると、いかにもガラの悪そうな男たち数人がひとりの女性を取り囲んでいる。身なりを見る限り、恐らくあの女性は宿屋の人だろう。
「もう一度聞くぞ……俺たちを泊められないとはどういうことだ?」
「で、ですから、今日は部屋がいっぱいで……」
「だったらそいつらを追いだせ! 俺たちはダンジョン探索から戻ってきて疲れているんだよ!」
めちゃくちゃな要求しているなぁ……というか、今日は満室なのか。それだと、俺たちも今日はテントを張って野宿ってことになりそうだ。
こういうのは早い者順だから仕方ないのだが、どうもあの男たちはそれで納得しないらしい。まるで子どものように駄々をこねて宿屋の人たちを困らせている。
イルナやミルフィは男たちの態度に憤慨しているが、レニーはその剣幕に怖がっているようで、マシロの背後へと隠れてしまう。
ジェシカとトーネも、なんとか店の人たちへ助け舟を出そうとした――その時、ロビー近くにある階段から白髪の老紳士がおりてくる。
「おやおや、随分と賑やかですねぇ」
この殺伐とした空気には合わない、なんとも穏やかで優しげな声。それが逆に男たちを刺激してしまったようだ。
「なんだぁ、ジジイ。てめぇに用はねぇ!」
「まあそう言わず……見たところ、泊れる部屋がなくてごねているようですな」
「だったら何だって言うんだよ」
「ワシらのパーティーのせいでこうなっているというなら……直接ワシらが話しを聞こうと思ってのぅ」
えっ?
あの老紳士……まさか冒険者なのか?
出で立ちもきちんとしているし、どこかの貴族の執事かと思っていたのに。
「おもしれぇ。やってもらおうじゃねぇか」
老紳士の前に出てきた男は、そう言い終えるといきなり殴りかかる。
ひ、卑怯な!
不意打ちを食らわせる気かよ!
俺が助太刀に入ろうと龍声剣へと手をかけた瞬間、
「ほい」
強烈なパンチをひらりとかわした老紳士は、カウンターの蹴りを男の脇腹へと叩き込んだ。
「「「「「なっ!?」」」」」
その場にいた全員が、驚きの声をあげる。
い、一体何者なんだ、あの老紳士は!
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