第278話 精霊の里

 レニーを精霊界へ送り返すため、次なる手を打つことにした。

 普通の人間である俺たちでは、どのような手段を用いたところで精霊界へ行くことはできない。

 ――ただ、たったひとつだけ、可能性がある。

 それは……この人間界でもっとも精霊たちが集まるという場所へ向かうことだ。


「で、その精霊たちが集まる場所ってどこなの?」

「精霊の里っていうんだ。俺が前の冒険者パーティーにいた時、一度乗り込もうって話になったんだけど……旅費が出ないってことで断念したんだよ」

「レックスたち、そんなこと考えていたの?」

「まあ、行ったところであいつらじゃ何もできないと思うけどね」

「ふふふ、それは言えているわね」


 馬車で移動中、俺はミルフィとそんな会話で盛り上がる。

 今回はイルナが御者を担当してくれているので、俺は荷台で今後の行動について他のみんなに説明していた。

 ちなみに、イルナもかつて霧の旅団のメンバーたちと精霊の里へ足を運んだことがあるらしい。ただ、その時は精霊の姿を確認してもすぐにいなくなってしまったため収穫はゼロだったという。

 あの霧の旅団でさえ、精霊の里では成果を出せなかった。

 まあ、あそこはダンジョンとは違うからなぁ……精霊たちの持つ不思議な力を授かろうって連中は多いけど、実際、それが叶ったっていう話は聞いたことがない。


 ただ、イルナ自身も精霊を目撃したというので、精霊自体があの場にいるというのは確かだろう。

 イルナたちは接触できなかったというが……今、こちらには精霊がふたりいる。

 マシロとレニー。

 ふたりとも、他の精霊と面識がなかったとしても、同族であることは伝わるだろう。あとは、そこから何とかレニーだけを精霊界へ連れて行くよう交渉できないか――不安要素は多いが、残された可能性はそれしかない。何とかして、今回の作戦を成功させなくてはな。


「精霊の里ですか……これは長旅になりますね」


 ふと、地図をチェックしていたジェシカがそう漏らす。

 彼女は精霊の里と呼ばれている場所が分からないということなので、地図に記載されている場所を教えたのだが……その通りなんだよな。


「スムーズに進んだとして、三日以上はかかりますね」

「えっ!? そんなに!?」

「遠い」


 レニーとトーネはジェシカの見積もった移動日数を耳にして驚きの声をあげる。

 もっと言うと、俺たちが目的地としている聖都から遠ざかるルートだ。

 とはいえ、その辺は特に気にしていない。

 もともと時間制限のある旅ってわけじゃないんだ。多少遠回りになったとしても、ここはレニーのために精霊界へ進むための道を探すべきだろう。

 あと、精霊の里へは一度行ってみたいと思っていたからな。


「今回もまた長旅になるようだから、途中で泊まれる宿を確保しないと」

「でしたら、今日はこのレダンという町に泊まりましょう。これくらいの距離なら夕方頃には到着できそうですし、町の規模もなかなか大きいから食事にも困らないはずです」

「それならアイテム屋もありそうだし、いろいろと調達できそうね」


 ジェシカとミルフィは地図を見ながら今後の計画を練っていく。

 本当に、頼もしいふたりだ。


 

 最初の町・レダン到着まではあと数時間。

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