第276話 解錠士《アンロッカー》としての意地

 脱出不可能なこの空間は、いわば鍵をかけられた宝箱も同然。

 それをこじ開けることができるとするなら――俺たち解錠士アンロッカーくらいだろう。


絶対開錠アブソリュトリー・アンロック


 塔のダンジョンの謎を解明したこの鍵は、俺の持つ解錠スキルの切り札。

 これで出られないのなら正直お手上げだが……果たして。


「ふぅ……」


 ひとつ息を吐いて、意識を集中。

 今回は鍵穴なんて分かりやすい目標はない。どこをどうやってこじ開け、ここから出るのか。そこが肝心だ。


「っ!」


 魔力を用いてしばらく周囲を探っていると、ついにある違和感を発見する。そこは俺たちがこの空間へ入ってきた扉のある場所だった。


「外へ出るには扉からってわけか……意外と行儀がいいじゃないか」

 

 明らかに、異常な魔力の歪みを感じる。

 さまざまな質のそれが複雑に入り混じった扉は、まるで何重にも仕掛けが施された金庫のようだ。

 

「いっけぇ!」


 女神の鍵を介し、魔力によって生みだされた鍵が扉目がけて放たれる。


「ぐっ!?」


 ここで、右腕に衝撃が走った。

 今、女神の鍵を通じて俺とあの鍵は全身がリンクしている状態――それでも、塔のダンジョンの宝箱をこじ開ける時は特に抵抗を感じなかったが……宝箱でないため解錠レベルは表示されないが、これは塔のダンジョンよりもレベルが高いってわけか。


 ――それでも、あきらめるわけにはいかない。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 自分に喝を入れるため、雄叫びをあげながら魔力を上げていく。

 やがて、何もない空間でありながら、「ガチッ!」と歯車が噛み合うような音がした。


 よし。

 あとはこれを回せれば――


「ぐっ!?」


 そこで再び難点が。

 扉は頑なに解錠を拒むかのごとくビクともしない。

 ここまで厄介な解錠はこれまでに経験がなかった。


「こっ――のぉ!」


 俺はさらに魔力を高める。

 もはや限界スレスレだ。

 そこまで全力をかけることで、ようやく鍵はゆっくりとだが回り始めた。百年以上という長い年月の間、ここに精霊のレニーを封じ込め続けた扉は、今静かに解き放たれようとしていた。


「いっけええええええええええ!」


 叫びながら最後のひと押しをすると、ついに「ガチャッ!」という音とともに閉じ込められていた空間から脱出するための扉が開く。


「っ!? み、見て!」 


 鍵が開いた瞬間、空間内に起きた異変を最初に発見したのはイルナだった。

 その場にいた全員が、イルナの指さす先へ視線を向ける。



そして――とうとう「それ」を目の当たりした。


「「「「「外だ!」」」」」


 壁の一部が破壊され、外へつながる道ができていた。

 どうやら、解錠は成功のようだな。


「さすがですね、フォルトさん」

「あぁ……おかげでいつも以上に疲れたよ」


 全力を出して解錠に挑んだ結果、足がふらつくまで疲労がたまってしまったようだ。そのせいで足元がふらついてしまうが、それを待っていたかのようにジェシカが体を支えてくれた。


 ともかく、外へつながる道はできた。

 あとはみんなで抜け出すだけだ。

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