第274話 ふたつの魔力

 出題者レニーは精霊だった。

 それだけでもだいぶ驚きなのだが……俺たちはもうひとつの点に着目した。


「この部屋だけど……なんだか違和感があるな」


 俺たちを閉じ込めているこの部屋。

 てっきり、あのレニーって子が作ったものだと思っていたのだが、周りの魔力を調べてみると、どうもそうではないようだ。


「確かに妙ですね……部屋全体に行き渡るこの魔力は、明らかに彼女のものではありません」

「ホントね。一体誰のものかしら……」


 ジェシカとミルフィも気づいたようだな。

 この部屋は、あのレニーという子が作ったものではない。まったく別の第三者の手によって生みだされたものだ。

 ということは、


「この部屋は、入ってきた者たちを閉じ込めておくために作られたのではなく、あのレニーという子を閉じ込めておくために作られたものじゃないのか?」


 そんな仮説が浮上した。


「でも、それならどうしてあの子は……」


 自分から外へ出ないか――と、ジェシカは続けたかったのだろうが、恐らくそれが不可能だから俺たちを呼んだのではないかと思い直したらしい。


 実際、レニーとマッスルスライム、そしてイルナとトーネとマシロの戦いぶりを見てみると……それは戦いというより、楽しく遊んでいると表現した方がしっくりくる。


「あの子……やっぱり、単純に私たちと遊びたかっただけ?」

「こうなってくると、お宝も本当にあるかどうか怪しくなってくるな」

「それどころか、ここから出られる方法も知らないのでは?」

 

 ジェシカのひと言に、俺とミルフィは固まる。

 ……もしかして、という可能性は脳裏にあったものの、こうして直接言葉にされると絶望感がハンパない。

 しかし、もしそれが事実だとするなら、あの子もここから出たいんじゃないか?

 実際、同じ精霊であるマシロは外の世界で暮らしているわけだし、あの子にも外の世界への憧れはあるのかもしれない。

 その辺の事情は、直接聞いてみることにするか。


「…………」


 俺は深呼吸を挟んでから、イルナたちへと近づいていく。


「フォ、フォルト!? 迂闊に近づいちゃダメよ!」

「危険」

「気をつけてください、フォルトさん!」


 イルナたちはすっかり鬼ごっこに夢中となっているが――それもここまでだ。


「遊びはここまでにしよう」


 迫りくるマッスルスライムたちとレニーにそう告げる。

 すると、途端に彼女たちの動きがピタリと止まった。


「……なんのことかしら?」

「この空間は君が作ったものではないのだろう?」

「っ! そ、それは……」


 バツが悪そうに俯くレニー。

 精霊といえば、まだ子どもだな。

 心情がすぐに態度へ出る。


「えっ? 遊びってどういうことなの?」


 一方、事情を知らないイルナたちは動揺しているようだ。

 ちょうどいい。

 レニーだけじゃなく、三人にもきちんと伝わるように、俺とミルフィとジェシカで導きだした仮説を説明していくとするか。


 ――もしかしたら、俺たちだけじゃなく、精霊レニーを救うことができるかもしれないしね。

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