第273話 脱出をかけた鬼ごっこ

 謎の空間から脱出するために行われる決死の鬼ごっこ。

 出題者レニーと、彼女の使い魔であるマッスルスライム(×3)を相手にするのは、うちの体力自慢であるイルナとトーネ、そしてマシロである。


 厳密に言うと、マシロに関しては体力自慢というわけではないのだが、本人に何やら考えがあるらしく、立候補したのだ。


「ふふふ、パーティーの中でもスピード自慢であるあたしたちを捕まえることができるかしら?」

「上等よ! 必ず捕まえてやるんだから!」


 イルナがノリノリで煽ると、レニーはそれにまんまと乗っかる。単純というべきか、純粋というべきか……まあ、こちらとしては周囲をチャンスなのだが。


 厄介なのは、三体のマッスルスライムか。

 これまでに何度か遭遇しているモンスターだけど、基本的に彼らはその肉体を他者に見せつけることだけに全神経を集中している。そのため、鬼ごっこなんてできないだろうと思われた。


 しかし、主人であるレニーの願いから、彼らはそのアイデンティティーを脱ぎ捨ててイルナたちを追いかけ回し始めた。


「最初はあの三人から捕まえるわよ!」


 楽しそうにレニーがそう告げると、マッスルスライムたちは頷き、連携を取って三人へと迫った。


「ちょ、ちょっと! 聞いてないわよ、こんなの!」

「速い」

「マッスルスライムさんたちがここまで積極的に動くなんて!?」


 これにはさすがに三人にも動揺の色がうかがえる。

 そこはやっぱり、野生のモンスターと使い魔の違いというところか。


 ――って、冷静に分析している場合じゃない。

 今のうちにこの空間について情報を集めなければ。


 俺とミルフィ、そしてジェシカの三人で、どうにかここから脱出できないものか、あたりを注意深く観察しながら策を練った。

 しかし、調べれば調べるほど、この空間はかなり特殊だ。


「周囲に魔力を感じるけど……なんだろう。普通の魔力じゃない感じがするわ」

「私もミルフィさんと同じ意見です――が、過去にどこかでこれに似た魔力を感じた記憶があるんです」

「ジェシカも? 実は私もなの……」


 何より俺たちを困惑させたのが、魔力の質であった。

 普通の人間が扱う魔力は異質。

 それでいて、そう遠くない過去に同じ魔力を俺たちはどこかで感じ取っていた。


 ミルフィやジェシカは見当がついていない様子だが――俺はその正体に気づく。


「これは……精霊が持つ魔力だ」

「精霊――あっ!」

「そうです。これは精霊の……」


 ふたりは思い出したようだ。

 ――そう。

 ガーネス・シティでマシロが歌の精霊女王として覚醒した時に感じた魔力とまったく同質であったのだ。

 それが意味するところとはつまり、


「あのレニーという子は……精霊なのか?」


 そういうことになる。


「せ、精霊がどうしてダンジョンに?」

「……まったく分からない」


 肝心なところで本質には迫り切れなかった。

 その時、


「しつこいわね!」

「気をつけてください、トーネさん」

「間一髪」

「あっはははははは! なかなかやるじゃない!」


 壮絶な鬼ごっこを繰り広げているイルナたちの姿が視界に飛び込んできた。

 ――もしかして、これがヒントじゃないか?

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