第272話 フォルトの狙い

 まったく終わりの見えない出題者レニーとの勝負。

 ……というより、向こうに終わらせる気が全くないのだと思う。

 このままではお宝をゲットするどころか、この空間から一生出られない可能性まで出てきた。相手は女の子の姿をしているが、間違いなく人間じゃない感じだし……もしかしたら、うちのマシロみたいに精霊なのかもしれない。


 いずれにせよ、なんとかしてこの空間からの脱出を試みたい俺たちは役割分担をして挑むことにした。


 イルナ、トーネ、マシロの三人が中心となってレニーをかく乱し、その隙に俺とミルフィ、さらにはジェシカの三人で参加しているふりをしつつ、周囲を調べる。


 なので、できればこの作戦を実行しやすい勝負だとありがたいのだが――


「次の勝負は鬼ごっこよ!」


 よし!

 おあつらえ向きの勝負が来たな!


「私とマッスルスライムたちであなたたちを追い詰めてあげる」


 自信満々といった感じのレニーだが……実質、六対一なんだよなぁ。何せ、マッスルスライムたちは己の肉体を相手に見せつけることしかしてこないし。

 そのマッスルスライムたちだが、何やら戸惑っている様子だった。

 

 しばらくして、動きが落ち着いてきたかと思うと――俺はある事実に気づく。


「っ!? ポージングを放棄した……?」


 なんと、マッスルスライムたちは自分たちのアイデンティティーでもあるポージングを捨てて勝負に参加する構えを見せていた。


 ――恐らく、ダンジョンで出会った普通のマッスルスライムならこうはならないだろうと思う。

ここにいる三体のマッスルスライムは使い魔だ。

 使い魔として、主人の力になりたいという気持ちが、自分たちのアイデンティティーを上回ったのだろう。


 ……だが、よく見ると何やら悶えているようだ。

 使い魔として主人の役には立ちたいが、それでもポージングを捨てることに対して葛藤があるらしい。彼らからしてみれば、ポージングは呼吸も同然だからな。そりゃ苦悩もするだろうよ。


 一方、そんなマッスルスライムを見たレニーは、


「あなたたち……そんなに私のことを……」


 なぜかちょっと感動していた。

 まあ、思いっきり美化してみれば、主人のための葛藤でもあるわけだからな。実際に彼らの主人をしているレニーからすると、心にグッと来るものがあったらしい。共感はできそうにないけど。


「あなたたちの覚悟は受け取りましたわ。――では、始めましょうか!」


 マッスルスライムの頑張りに感銘を受けたレニーの合図により、第二試合――鬼ごっこは唐突に始まった。


「私たちが鬼で、あなたたちが逃げる側よ! 十分という制限時間内までにひとりでも捕まっていなかったならあなたたちの勝ちよ!」


 これまた随分と俺たちに有利なルールを……ひとりでいいなら、間違いなくイルナは残るだろう。もっとも身体能力が高いしね。


「そういうことなら――全力で行かせてもらうわ!」


 イルナにとっても得意分野ということで気合が乗っている。

 よし。

 その間に、俺たちはこの空間内を詳しく調べて、秘密を解き明かして見せるぞ。


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