第257話 史上最大のトラップ?

「えっとぉ……もしかして、この問題を解くことが突破の条件?」

「らしいわね」

「私もそう思う」


 だとしたら――メンツ的に厳しいぞ。

 いや、それでもイルナなら!

 冒険者としてのキャリアがもっとも長いイルナなら!!

 霧の旅団の一員として世界中を旅してきたイルナなら!!!


「イルナ! ここは君に任せる!」

「あっ、はい」


 ……あれ?

 今、敬語じゃなかった?

 というか、目が泳ぎまくっているような?


「大丈夫。うちで一番長く冒険者をやっているイルナなら、絶対に解ける」

「…………」


 トーネからのエールがダメ押しとなり、もう逃げられないと悟ったイルナは出題者である緑色の鳥の前に立つ。


「おやぁ~? 君が回答者? そっちの男の子かと思ったのに~」

「うるさいわね! バシッと正解してやるわよ!」

「凄い自信だね。それじゃあ、答えをどうぞ」

「…………」


 イルナ、沈黙。

 ……まあ、これはかなり難しい問題だよなぁ。


「あっ、ちなみに、君たちは初めての挑戦みたいだから、問題の難易度は一番レベルの低いヤツの中からチョイスしたよ」

「なっ!?」


 う、嘘だろ!?

 あれが一番簡単だって言うのか!?


「さあさあ、早く答えてよ。こんなところで躓いていたら、全問正解してお宝をゲットするのに何年もかかっちゃうよ?」

「あ、あう……」


 ダメだ。

 イルナは完全に戦意を失っている。

 ……ここは、出直すしかなさそうだ。


「うーん? もうギブアップかい?」

「あ、あぁ……残念だが――」

「求愛のダンスを踊る」

「「えっ?」」


 どこからともなく聞こえてきた声に、俺と出題者である鳥の声が重なった。

 い、今の声は――


「ト、トーネ!?」

「イルナが分からなかったみたいだから、私が代わりに答えた」

「そ、そうなのか……って、よく分かったな」

「ディオックの森には行ったことがある」


 そ、そういえば、トーネの父親であるゴルディンさんは、冒険者だったな。


「せ、正解……」


 悔しそうに呟く出題者の鳥。

 

「なかなかやるねぇ、お嬢さん。――でも、次は解けるかな?」

「どんとこい」


 おぉ!

 なんて頼もしいんだ、トーネ!

 俺とイルナが期待の眼差しを向ける中、トーネは快調に正解を重ねていく。


「今から約百年前、ストリア大陸のザンジール帝国が開発した、現在でも再現が難しいとされる魔導兵器の名前は?」

「自律型甲冑兵」

「世界三大名山のひとつである霊峰ガンティアで今も伝統的な生活を続けている民族といえば?」

「ムデル族」


 よどみなくスラスラと答えていくトーネ。

 アイテム関連の問題はジェシカも得意そうだが、それ以外の問題もまったく苦にしていない。凄い知識量だ。


「ぐっ……次が最終問題だ」


 いよいよラストの五問目までたどり着いた。


「ドラゴンの亡骸で育つ樹木で作られた、農業特化の力を秘めた剣の名前は?」

「竜樹の剣」


 これまた即答。

 結果は――


「せ、正解……」


 大きな鐘の音が鳴り響く。

 どうやら、これでトラップはクリアらしい。


「ず、随分とあっさりしていたわね」

「あ、あぁ……」


 ――絶対に、このままじゃ終わらないだろう。

 たった五問の問題なら、他の冒険者たちがあれほど苦労するわけがない。


 まだ何か……ここには秘密が隠されているはずだ。

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