第254話 いざ、大図書のダンジョンへ
ダンジョンらしくないダンジョン。
そもそも、大図書っていう名前からもあまりダンジョンっぽくないのだが、その入り口周辺の空気もあいまって、もはやいつものような緊張感は消え去っていた。
「なんだか……ほんわかしているな」
「ほ、本当に……」
こうして、目の前に立っていても、未だにここがダンジョンなのかどうか分からない。
だからといって、このまま立ち尽くしているわけにもいかないよな……これまでも異色のダンジョンってヤツは何度も経験してきたんだ。危険性がない分、攻めやすいには違いないのだから、進むしかない。
俺たちは覚悟を決めて、ダンジョンへと足を踏み入れた。
最初は特にこれといっておかしな点はなかったが――五分ほど歩いていると異変が現れた。
「あれ? 扉?」
徐々に道幅が狭くなっていったと思ったら、頑丈そうな扉が行く手を遮る。
どうやら、この先が大図書へとつながっているらしい。
「よし……行こう」
戦闘を行く俺が扉を開けた――次の瞬間、
「わあっ!」
真っ先に声をあげたのはジェシカだった。
それに続いて、俺たちも目の前に広がる信じがたい光景に「おぉ」と声が漏れる。
なるほど……これは確かに『大図書のダンジョン』と呼ばれるに相応しい。
パッと見の印象はまさに図書館だ。
数えきれないほどの本棚に、これまた膨大な数の本がぎっしりと詰められている。
「あれって……本当に全部本なのか?」
「すべてを調べたわけじゃないんでしょうけど……もし本物だとしたら凄まじい量よ」
イルナの言う通り、あれだけ大きな本棚が数えきれないほどあるとしたら……数万冊ってレベルだぞ。
本棚以外の内部構造に目を向けると、そこはダンジョンというより完全に建築物の中という印象を受ける。床や壁は木製で、見上げると、天井には無数の発光石が埋め込まれている。あれは誰かが仕込んだというより、自然の形で存在しているという感じがする。
ふと脳裏に浮かんだのは、以前探索した塔のダンジョンだ。
あそこも、ダンジョン内に巨大な人工物があった。
もっとも、あっちは古代人の遺跡らしいが……こちらはつくられた年代的に割と最近なんじゃないかと思う。
それにしても……
「やっぱり、ダンジョンらしい緊迫感は皆無だな」
思わず、そう漏らした。
ダンジョンには俺たち以外にも冒険者がいる。
それも、かなりの数だ。
しかし、彼らはモンスターと戦っているわけではないし、トラップを解くのに四苦八苦しているというわけではない――いや、ある意味、トラップを解くのに四苦八苦していると言っていいか。
そこでは、ギルドとまったく同じ光景が広がっていた。
冒険者たちはみんな読書に夢中で、机にかじりついている。
あまりにもダンジョンからかけ離れた光景に呆然としていると、
「あら、奇遇ですわね。あなたたちもこちらのダンジョンへ?」
聞いたことのある少女の声がした。
振り返ると、
「ウィローズ!?」
冒険者パーティー・《テンペスト》のリーダーで、俺たちとも交流があるウィローズだった。
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