第253話 らしくないダンジョン

 大図書のダンジョンを攻略するため、ギルドにはたくさんの本が置かれており、冒険者たちは一心不乱にその本を読み漁って知識を蓄えていく。


 ……まあ、ダンジョン攻略に知識は必要不可欠ではあるが、これほどまでに必死となる意味はあるのだろうか。熟練の冒険者であれば、それまでに培った経験でカバーできそうなものだが。


「まあ、そんなリアクションになっちゃうのも無理ないか」


 明るい表情でそんなことを言うマーガレットさん。

 彼女はさらに、


「このダンジョンを攻略するのは……ある意味、ドン・ガーネスを倒すよりも難しいかもしれないわね」

「そ、そんなに……」


 その言葉が冗談に聞こえないくらい、勉学に勤しむ冒険者たちは追い込まれているように映った。

 一体、大図書のダンジョンでは何が起きているのか。

 まったく想像できず、その場へ立ち尽くす俺たちを見かねたのは、マーガレットさんがこう囁く。


「気になるなら……行ってみたら?」

「えっ?」

「あそこは強くて凶悪なモンスターが出現したり、厄介なトラップが点在しているってわけじゃないの。なんなら手ぶらで行っても平気なくらいよ。もっとも、周りにいる冒険者たちは殺気立っているから、小競り合いに発展する可能性はあるけど」


 強いモンスターは出ないし、トラップもない。

 それなのに、冒険者たちは殺気立っている。

 ますます分からなくなってきたな。


 ――と、なると、ここはやはりマーガレットさんの言う通り、みんなで一度ダンジョンを探索してみる方がいいだろう。一度足を運ばなければ、見えてこない景色もあるわけだしな。


 マーガレットさんの話では、「そもそもモンスターは見かけたことがないレベルで出てこない」とのことだったが、念のため、最低限でも準備は整えていく。


 その日はとりあえずそこで終わり、翌日改めてダンジョンへと向かうことにした。



  ◇◇◇



 翌日。

 俺たちは宿屋を出ると、ギルドで調達した情報をもとに、大図書のダンジョンがあるという場所を目指したわけだが――


「……は?」


 そこへたどり着いた瞬間、そんな声が漏れた。

 ここは……


「ここって――まだ町の中じゃないか!」


 なんと、ダンジョンがあるのはブルトブの町の外れにあった。

 岩壁にぽっかりと穴が開いており、そのすぐ近くにはご丁寧にも《この先は大図書のダンジョン》という立て札がある。

 なんだろう……ここまで緊張感のないダンジョンって初めてじゃないか?


「き、気の抜けるダンジョンね……」

「というか、ダンジョンであるのかどうかさえ分からなくなってきたわ……」


 混乱のあまり目眩を覚えるイルナとミルフィ。

 ダンジョンの入口周辺では冒険者たちだけでなく、一般人と思われる人や子どもまでいた。というか、辺りを見回してみると……ここって公園っぽいな。噴水もあるし、誰かが手入れしていると思われる花壇まである。恐ろしいくらいのほほんとした空気が漂っていたのだ。


「ここって……ダンジョンなんだよな?」

「立て札に書いてあるので、そうだと思いますが……」


 ジェシカまで困惑している。

 本当に……どうなっているんだ、ここのダンジョンは。

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