第221話 消える冒険者たち

「なんだって!? 君たちがあのドン・ガーネスを!?」


 とりあえず、詳しい事情を説明してもらうため、俺たちは先日の件を店主へと話す。

 最初は疑っていた店主のドワイトさんだが、女神の鍵や三種の神器の存在に気づくと信じてくれたようで、


「頼む! この町を救ってくれ!」


 そう言って、俺たちに頭を下げた。

 ともかくまずは話を聞きたいと説明すると、店を臨時休業にして情報提供に集中しやすい環境を作ってくれた。お店を閉じて大丈夫なのかと尋ねたら、


「まあ、最近は客足がめっきり減って売り上げも落ち込んでいたから問題ない」


 と、悲しい理由を教えてくれた。

 確かに、俺たちが最後の客で、あの酔っ払いのルーファスって人が来てからは誰も入店していなかったな……。


 気を取り直して、ドワイトさんから沼のダンジョンについての話を聞くことに。


「さっきも言ったが、沼のダンジョンはもともと攻略難易度が低く、初心者も大歓迎ってところだった」


 俺とイルナがかつて探索した、草原のダンジョンみたいな扱いか。


「この辺りで生まれ育って冒険者を目指そうとする者は、まずこの沼のダンジョンへと入っていく。確かに、奥まで行けば底なし沼が点在しているポイントはあるが、目に見えて分かりやすいから落ちるようなドジはいなかった」


 そこまで話すと、ドワイトさんは一度深呼吸をする。


「それが……急に帰還してくる者が減っちまって……原因はサッパリ分からねぇんだ。さっき店に来たルーファスをはじめ、多くの冒険者が調査のために何度もダンジョンへ足を運んだが、失踪した者の居場所に関する手がかりさえなかった」


 最後の方は涙声になっていた。

 ――ただ、ひとつ疑問が。


「いなくなった冒険者に関する痕跡はなかったんですね?」

「ああ」


 改めて確認した後、俺たちは顔を見合わせる。

 そのような特徴を持ったダンジョンに覚えがあった。


俺と同じ解錠士アンロッカーであるマルクスさんが住んでいた、廃棄のダンジョン――あそこへ入る時に利用する狭いダンジョンでも、最初の頃は条件が判明していなかったため、忽然と冒険者が消えるって話になっていた。

 実際、うちのイルナもそれで行方不明扱いになっていたし。


 今回の沼のダンジョンで起きた冒険者失踪事件も、それがかかわっているのではないだろうか。もしくは、塔のダンジョンのように、隠し部屋を通じて別の空間へ飛ばされるってこともあり得る。


 これまでの経験から得た情報を伝えると、どうやらドワイトさんはそれらについて知らなかったようで、驚きの表情を浮かべていた。


「そ、そんなことが……」

「あくまでも仮定の話なので、本当にその条件に合うかどうかは分かりませんが……詳しく調査してみる必要はありそうですね」

「!? やってくれるのか!?」

「俺たちもその沼のダンジョンを目当てにここまで来たんですから。それに、困っている人を放ってはおけませんよ。――なあ、みんな」


 俺が呼びかけると、メンバー全員が「うんうん」と頷いた。


 こうして、冒険者失踪事件の真相を解明するため、俺たちは沼のダンジョンへと挑むことになったのだった。

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