第220話 ペンドルトンの町

 湖での休憩を挟みつつ、目的地であるペンドルトンの町へたどり着いた俺たちは、まず宿屋の手配を済ませてから近くのギルドへとより、探索予定となっている沼のダンジョンの情報を収集。それが終わると、食堂へと移動した。

 そして、夕食をとりながら明日のダンジョン探索に向けて作戦会議を始める。


「マップによると、そこまで大きくはないダンジョンのようですね」

「出現するモンスターも、これまでと比べて特別強力ってわけじゃなさそうね」


 ジェシカとイルナが、それぞれ集めた情報を伝えてくれる。

 それによると、事前情報に比べて難易度としては難しくはないと呼べるものだ。


 ――ただ、ひとつ気がかりなことがある。


「……メンバーを募集しているパーティーが多かったな」

「そういえばそうでしたね」

「うん」


 マシロとトーネも気になっていたようだ。

 パーティーがメンバーを募集すること自体は決して珍しいことじゃない。中には特定のパーティーに所属せず、依頼のあったところへ短期間だけ所属するフリーの冒険者もいると聞く。


 だが、どうもこの町のギルドは様子が違っていた。


 するとその時、ひとりの飲んだくれが食堂へと入ってくる。


「ういーっく……」


 どうやら、相当悪酔いしているようだ。


「また来たのか、ルーファス」


 入店すると同時にその場へとへたり込んだ酔っ払いに向かって、店主が怒りのこもった声で応対する。


「へへへ、悪いな。酒が切れちまってよ」

「もうおまえにやる酒はねぇよ。とっとと失せな」

「そういうなよ。昔の馴染だろ? また一緒にダンジョンへ行こうぜ」

「俺はもう冒険者はやめたんだ。何度言わせれば気が済む」

「しょうがねぇさ……俺の仲間は、みんなあのダンジョンに呑み込まれちまったんだからよぉ」


 ダンジョンに呑み込まれた?

 それってもしかして……沼のダンジョンのことか?


「何度も言うが、俺にはもう妻子がいる。あいつらのためにも危険な冒険者稼業からはおさらばして、平穏な生活がしたいんだ」

「……分かったよ」


 ルーファスと呼ばれた酔っ払いの中年男性は寂しげな表情を浮かべて店を後にする。それから、店主は各テーブルに騒がしくて申し訳ないと謝罪して回ったが、俺たちのテーブルへ来た瞬間に表情が変わる。


「君たち……冒険者なのか?」

「え、えぇ」

「もしかして、沼のダンジョンに挑むつもりか?」

「そうですけど……」

「悪いことは言わない。やめておけ。――さっきの男のように、仲間を失うぞ」

「ど、どういう意味ですか?」


 俺は思わず聞き返した。

 たぶん、みんなも詳細な情報を知りたいだろうし。

 店主は少しためらうような素振りを見せるが、俺たちが真剣な眼差しで尋ねていることを理解すると、一度大きなため息を挟んでから説明を始めてくれた。


「ここ一ヶ月くらいのことだが、あのダンジョンでは冒険者の失踪が相次いでいる」

「ぼ、冒険者の失踪!?」

「大方、強力なモンスターが住み着いたんだろうが……迷惑な話だ。それまで、あそこは比較的難易度の低いダンジョンだったから多くの冒険者たちで賑わっていたんだが、その失踪事件が明るみになってからはすっかり客足が途絶えちまった」

「そ、そうなんですか……」

「討伐クエストを出しているようだが、未だに達成者はおろか挑戦者さえいない状況だ」


 店主はもう一度ため息をついてから、


「先日、凄腕の解錠士アンロッカーと冒険者たちが、あのドン・ガーネスを倒したって話を聞いたが……それくらいの実力者でなければこんなクエストを受けちゃくれないんだろうな」

「!」


 全員の視線が一斉にバッチリと合う。 

 それってつまり……俺たちのことなのか?

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