第219話 のんびり道中

 沼のダンジョンがある最寄りの町へ向かう俺たち。 

 しかし、今回はガーネス・シティ攻略戦の時のように緊張感に縛られたり、時間に追われたりしているわけではないので、久々にゆったりとできる時間を謳歌するため、道中はのんびりしたものだった。


 今も、途中で見つけた湖のほとりに馬車をとめ、そこで昼食をとった後、ゆっくりとした時間を過ごしていた。


「なーんか……こうしてゆっくりするのも久しぶりねぇ」


 大きな岩へ背を預けるイルナが、あくび交じりにそんなことを言う。


「たまにはいいわよね、こういう時間も」

「ああ。ずっと張り詰めているわけにもいかないしな」


 このまったりとした空気の中にいると忘れてしまいそうだが、ほんの数日前、俺たちは悪名高いあのドン・ガーネスと戦い、勝利したのだ。

 それはまさに激闘だった。

 ガーネスが集めた兵士たちと、ヤツのやり方に反対する冒険者たちが正面衝突。

 結果として、歌の精霊女王として覚醒したマシロの活躍まって、俺たちはなんとか勝利することができ、そのマシロは自由を獲得することができた。

 俺はチラッと視線を移動させる。

 湖ではミルフィ、トーネ、マシロの三人が水遊びをしており、ジェシカはシートを広げてアイテムをいじっている。


「ふぅ……」


 息をついて、天を仰ぐ。


 広がるのは雲ひとつない青空。


「よく生きていたよなぁ……」


 手にした女神の鍵を眺めながら、俺は呟く。


 最終目的地に設定した聖都。

 そこには、聖騎士団のフォーバートさんをはじめ、多くの人々から崇められる聖女ルナリア様がいるという。話では、彼女もまた解錠士アンロッカーらしいが……一体どんな人なんだろう。


 ルナリア様のもとを目指しつつ、途中のダンジョンで冒険をしていく。

 その第一弾である沼のダンジョンはもう目前にまで迫っていた。


「さて、そろそろ出発しようか」

「そうね。おーい、行くわよー」


 イルナがみんなに声をかけると、「はーい」と返事をして戻ってきた。


「最寄り町はペンドルトンという名前らしいけど……地図を見る限り、結構大きな町みたいだね」

「到着する頃には夕方になっているでしょうから、動きだすのは明日からになりそうですね。アイテムを売却して資金を得た後、少し見て回りましょうか」

「大賛成!」


 ジェシカの提案に、ミルフィが乗っかる。

 それに合わせ、トーネやマシロ、そして最終的にはイルナも同意した。

 ここまでリクエストを受けてしまったら、やらないわけにはいかないだろう。今回はまずみんなでアイテムを揃えた後、町の探索へも乗りだすと決めた。


「さすがはフォルト。話が分かるわね」


 イルナに背中をバシバシと叩かれたことでちょっとむせるが、喜んでもらえたようで何よりだ。


「よし、ここからの御者はあたしが務めるわ」

「いいのか、イルナ」

「フォルトは長い時間やって疲れたでしょう? 近いと言っても、まだ一時間近くはかかるでしょうし、それまではゆっくり休んでいなさい」

「ありがとう。そうさせてもらおうかな」


 イルナの厚意に甘えて、もう少し休むことにした。

 黙っていたけど、まだちょっと腰が痛かったんよなぁ。

 もしかしたら、イルナは気づいていたのかもしれない。


 こうして、少しのブレイクタイムを挟んだ後、俺たちは目的地であるペンドルトンの町へ向けて再出発したのだった。

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