第218話 旅立ち

 翌朝。


 今日もまた、朝から復興作業で大変な賑わいを見せていた旧ガーネス・シティ。

 俺たちはそのガーネス・シティに別れを告げ、新たなダンジョンのある西へ旅立つことを決め、まずリカルドさんとカタルスキーさんにその話を告げた。


「なるほど。沼のダンジョンか。あそこはだいぶ前に行ったことがあったが……どうだったかな、アンヌ」

「なかなか骨のあるダンジョンだったわ。ドロップする宝箱も解錠レベルが高いものが多くて、依頼に困った記憶があるわね」


 霧の旅団をもってしても攻略が難しいというダンジョンか。

 これは確かに、苦労させられそうだ。


 でも、あの鋼のダンジョンでの難題を乗り越えた俺たちなら、沼のダンジョンでも成果を出せるはず。あの戦いを経て、俺たちは大きな自信を得ていた。


「最終的には聖都を目指すのだろう?」

「はい。聖女ルナリア様を訪ねてみたいと思います」

「今回の件は彼女の耳にも届いているだろうからな。それに、フォーバート聖騎士団長が口添えをしてくれるはずだ」


 カタルスキーさんには聖都の情報について話をしてもらった。


 ちなみに、テリーはしばらくの間、リカルドさんたちとともに大迷宮に挑むこととなった。この子の嗅覚が必要とのことで、俺たちもいずれはそこへ戻るから、しばらくのお別れとなる。


「達者でな、テリー」

「わふっ!」


 テリーとの挨拶を済ませると、俺たちは同じ冒険者仲間であるウィローズのもとを訪れた。


「あら、あなたたちも次のダンジョンへ?」

「あぁ。ウィローズはどうするんだ?」

「わたくしも同じですわ」


 どうやら、まだ貴族の生活に戻る気はないらしい。というより、彼女にとっては貴族として優雅な生活を送るより、冒険者として生きた方が自分らしいと思っているんじゃないかな。


「わたくしたちは東へ行くつもりですが、冒険者としてダンジョン巡りをしていればそのうちまた顔を合わせるでしょう」

「そうだな。その時はまたよろしく頼むよ」

「こちらこそ」


 パーティーのリーダーである俺とウィローズは固く握手を交わした。

 その様子を見ていたのは、

 

「若いっていいなぁ、マルクス」

「そうだねぇ、バッシュ」


 バッシュさんとマルクスさん――俺にとっては先輩の解錠士アンロッカーだ。ふたりにはここに来るまでの間、凄く世話になったな。

 というわけで、俺たちはふたりにも旅立ちの挨拶を行う。


「そうか。西か……気をつけろよ」

「フォーバート騎士団長から聞いていると思うけど、これからはガーネスと同じ――いや、もしかしたらガーネス以上に性悪のエスパルザが動きだすだろうからね」

「ヤツはガーネスとは違い、本拠地を持たない。商会の代表として常に動き回っている男だからな」


 同業者であるふたりは、エスパルザについてもよく知っているようだ。

 しかも、マルクスさん曰く、ガーネスより性悪なのかもしれないらしい。あれより上ってちょっと想像できないんだけどな。



 その後、俺たちは町で作業をしている冒険者たちに見送られながら、旧ガーネス・シティをあとにする。


「な、なんだか、凄いお見送りだったわね」

「ド派手」

「みなさんに応援してもらえるのは嬉しいんですけどね」


 イルナ、トーネ、ジェシカの三人はその熱意に困惑気味だったが、ミルフィは振り返ってジッと旧ガーネス・シティを見つめるマシロへと寄り添った。


「行きましょう、マシロ」

「! はい!」


 それは、決別のための笑顔に見えた。

 これまで自分を縛り続けてきたドン・ガーネスとの永遠の別れ。


 自由を謳歌する翼を広げたマシロは、俺たちと一緒に西を目指す。

 次の目的地は――沼のダンジョンだ。


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