第217話 新たな目的地

 聖騎士団長のフォーバートさんが口にした、この世界のもうひとつの闇。

 王宮解錠士ロイヤル・アンロッカー――エスパルザ。


「気をつけたまえ。彼はある意味……ドン・ガーネスよりも厄介な存在だ」

「ガーネスよりも……」


 たったひとりでひとつの町を支配し、世界に影響を与え続けていたガーネス。それよりもタチが悪いとなると……相当な悪党ってことか?


「あ、ある意味というのは……」

「ヤツの本職は――商人だ」

「えっ?」

「表向きは、な」

「と、いうと?」


 フォーバートさんにしては、随分と遠回しな言い方だ。それが、「表向きは善人」という表現につながっているのだろう。


「エスパルザは王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーとして、某国の王家に仕えているのだが、その裏で、世界でも屈指の規模を誇る商会のトップを務めている」

「商会のトップ……」

「その商会は、エスパルザが報酬で得た金で購入した武器を高値で世界各地の紛争地帯に売り飛ばしている」

「ぶ、武器を?」

「ああ。その販売ルートも巧妙に分散されていて、確たる証拠を掴めないでいるんだ」


 ……なるほど。

 堂々と表に立って悪事を働くガーネスとは違い、商会を通じて利益を得ようとしているのか。


「エスパルザはガーネスよりもずっと頭が切れる。この先、君たちが冒険者として世界各地のダンジョンを見て回ろうというなら……いずれ接触することになるだろう」

「……ですね」

「道中は十分に気をつけろ。では――聖都にて、君たちの到着を待つ」


 最後に、フォーバートさんはそう言い残すと、たくさんの部下を引き連れてその場を立ち去っていく。その後ろ姿を目で追っていると、ようやく終わったんだって実感が湧いてきた。


 思えば、囮で終わるはずだった俺の人生……随分と出世した物だなと思う。

 

「どうかしたの、フォルト」

「……いや、なんでもないよ、イルナ。それより、次の目的地を決めようか」

「! そう来なくっちゃ!」


 冒険者であるイルナは、うずうずしていたろうな。

 ともかく、これでガーネスにかかわる問題はすべて解決したんだ。

 いよいよ俺たちは本来の活動――ダンジョン探索に専念できる。



 宿へ戻った俺たちは、早速地図を広げて次の目的地を決めるための会議を開いた。


「もっとも近い場所は……ここですね」


 ジェシカが指し示したその場所は、旧ガーネス・シティから西へ進んだ場所にあった。


「前に、他の冒険者の方々から情報を集めてきたのですが、ここはなかなかの穴場スポットらしいですよ」


 そんなことをしていたなんて……頭が下がるよ。

本当にいい参謀役を務めてくれている。


「そのダンジョンって、何か特徴はあるの?」


 ミルフィが尋ねると、ジェシカは「コホン」とわざとらしく咳払いをしてから、


「冒険者たちの間では、沼のダンジョンと呼ばれているようです」

「沼のダンジョン……」


 風、鋼と来て、次は沼か。

 あのふたつに比べると、どんなダンジョンなのかある程度予想できるだけありがたいな。


「名前を聞く限り……湿地帯かしら?」

「私もそう思った」

「おふたりの言う通り、情報によるとこのダンジョン内部は湿度が高く、独自の生態系を築いているそうです」


 これまでの常識がきかないダンジョン――と、思ったけど、割とこれまでもダンジョン独自のモンスターと戦って来たし、その辺は情報さえあれば大丈夫かな。



 こうして、俺たちの新しい目的地は決まった。

 沼のダンジョンからスタートし、ゆっくり北上して聖都を目指すこととなった。

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