第216話 もうひとつの脅威
診療所へ戻ってくると、驚くべき事態が起きていた。
「マシロ!?」
「あっ、フォルトさん、それにみんなも」
マシロが意識を取り戻していたのだ。
「体はもう大丈夫か?」
「はい。本当に……ご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げるマシロ。だが、俺たち仲間の中で、心配はしたものの迷惑に思っている者はひとりもいない。ただただ、マシロが目を覚ましてくれたことが嬉しかったのだ。
「気にしないでいいわよ」
「まったくもう、心配させて」
「でもよかった」
「トーネさんの言う通りです」
「あ、ありがとうございます」
俺たちは全員でマシロの回復を喜んだ。
それから、俺たちはマシロの回復を町で復興作業をしている人々に教えて回った。
ドン・ガーネスによって長らく苦しめられていた歌の精霊女王。
あの戦いの中で暴走し、一時は危機的な状況へと陥ったが……こうして、元の元気な姿になってくれてよかったよ。
町の人々も、マシロの回復を喜んでくれた。
ついにはそれを祝して大宴会が開かれることとなり、復興作業を一旦やめて早速その準備に取りかかる。
活気にあふれる元ガーネス・シティ。
次々に声をかけてくれる冒険者たちと、賑やかな町の様子を眺めていたマシロ――その目から、思わず涙がこぼれた。
「ど、どうかしたのか、マシロ!?」
いきなりの涙に、俺は思わず取り乱す。
だが、マシロの様子から、どうやら悲しさからくる涙ではないようだ。
「私……驚いているんです」
「えっ?」
「こんなに幸せでいいのかなって」
「マシロ……」
これまで、辛い経験が多かったマシロ。
俺たちと一緒に旅をしていた時も、最初のうちはどこかよそよそしかった。しかし、打ち解けてくるとだんだんと笑顔も増え、自然と振る舞えるようになっていった。ドン・ガーネスの支配するシアターで歌姫をしていた頃からは、きっと想像できない日々だったのだろう。
だが、それは夢ではない。
今のマシロには、俺たちがいる。
もう、誰にも縛られることはないのだ。
宴会の準備は着々と進む中、俺はみんなと手伝いをしながらもこの先のことを考えていた。
最終目的地は聖都。
一度、聖女ルナリア様に会ってみたいと思っていた。
その前に、もっとダンジョンを見て回ろうと思ったのだが――そのルートを思い浮かべていると、俺のもとをひとりの男性が訪ねてきた。
「少しいいかな、フォルトくん」
聖騎士団のリーダーであるフォーバートさんだった。
「どうかしましたか、フォーバートさん」
「念のため、君に伝えておこうと思ってな」
「えっ?」
伝えておくこと……フォーバートさんの態度からするに、それはあまりいい知らせというわけではなさそうだ。
「なんでしょうか?」
「ドン・ガーネスが滅んだことで、活発に動きを見せてくると予想される
「そ、そんな人物が……」
ガーネスと同じように、悪行を繰り返す
聖騎士団は、その中でも特に要注意人物を俺に教えてくれた。
「男の名はエスパルザ。ガーネスと肩を並べる
フォーバートさんは眉をしかめながらその名を口にした。
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