【書籍第1巻発売記念SS】イルナと読書

※時系列としては、フォルトが霧の旅団に入って間もなく、まだミルフィとも合流していない段階です。


書籍第1巻はいよいよ明日29日発売!

よろしくお願いいたします!



※本編は19:00に投稿予定!





 若き冒険者イルナは苦悩していた。

 その原因は、最近パーティー・霧の旅団に加入した同い年の少年――フォルト・ガードナーについてだ。

 父であり、パーティーのリーダーを務めているリカルドからの提案もあり、イルナはこの新米冒険者のフォルトにダンジョン攻略のいろはを叩き込むつもりでいた。


 しかし、解錠士アンロッカーとしての才能に目覚めたフォルトは、三種の神器と呼ばれる優れたアイテムを手に入れ、さまざまなダンジョンで新入りとは思えない、目覚ましい功績を挙げてきた。


 そんなフォルトの活躍を間近で見てきたイルナの胸には、気がつくと最初に出会った頃にはなかった新しい感情が芽生えていた。




「何よ……こんなに種類があるの……?」


 ここはクロエルの町にある本屋。

 いくつも並ぶ背の高い本棚を前に、イルナは腕を組みながらぶつくさと文句を言っていた。

 なぜ、イルナがここにいるのかというと――事は約一時間前にさかのぼる。


 午前中にダンジョンから戻ってきたフォルトとイルナは宿屋でくつろいでいた。

 今回はダンジョンでの戦闘でイルナが腕を負傷したので早めに切り上げてきたのだが、時間が空いたことでフォルトはかねてより読みたいと思っていた本を手に読書を楽しんでいた。


「そんなに楽しいの、本を読むって」

「結構勉強になるんだよ」

「ふーん……」


 これまでろくに読書をした経験がないイルナには、その楽しさがよく分からなかった。

 しかし、自分も読書をすれば、フォルトともっと深い会話ができるかもしれない――そう思ったから、町の本屋へやってきたのだ。


 しかし、想像以上に数が多いことで、イルナは本を読む前からガックリと脱力していた。


「うぅ……どれを読んだら――あら?」


 フォルトと話が合いそうな本を探していると、表紙がピンク一色で塗られ、真ん中に大きくハートが描かれた本を発見する。


「随分可愛らしい本ね」


 その色彩にひかれたイルナは本を手に取る。


「あっ、思ったよりページ数がない。それに値段もお手頃……って、ここに何か書いてあるわね」


 何も書かれていないと思われた本の表紙だったが、よく見ると端っこに小さな文字があることに気づく。それによると、


「これ……年齢制限つきってこと?」


 どうやら、この本は一定の年齢に達していないと読めないものらしく、イルナはその年齢とちょうど同じであった。


「つまり、それだけ高尚な内容ってことよね!」


 年齢制限についてそう解釈したイルナは、これを読めばフォルトとの仲もより深まると判断し、勇んで購入していったのだった。



 ――その日の夜。



「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 想像を絶する過激な内容に、イルナは絶句。

 結局、その日は一睡もできないのだった。






 翌日。


「そういえば、宿屋の店主が言っていたんだけど、本屋へ行ったんだって?」

「!? う、うん」

「どんな本を買ったんだ?」

「えっ!? あ、ああ……買おうと思ったんだけど、やっぱりやめたの」

「そうなんだ……」

「で、でも! 本を読みたいって気持ちはあるから! だから……今度、フォルトが好きな本を紹介して」

「えっ? 俺が好きな本なんかでいいの?」

「もちろん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る