第182話 偉大な冒険者

 少女リンの悩みを解決するため名乗りを挙げた俺たちだったが、気がつくと別行動を取っているミルフィ、マシロ、トーネのグループと合流する時間になっていた。


 とりあえず、リンを連れて合流ポイントへと移動。


「……また知らない女の子が増えている……」


 リンを見たミルフィの第一声がこれだった。

 しかし、事情を説明すると、


「そういうことなら協力するわ」


 と、俺の提案を快諾。

 改めて、パーティーみんなでリンの話を聞くことにした。


「まず、私はある冒険者のパーティーに所属している冒険者なの」

「ある冒険者?」

「はい。ジャベル・カタルスキーという冒険者なのですが」

「「えっ!? ジャベル・カタルスキー!?」」


 その名に飛びついたのはイルナとジェシカのふたりだった。


「し、知っているのか?」

「当然でしょ!」

「霧の旅団と同じ、Sランク冒険者パーティーのリーダーですよ」

「うちはまだSランクになって日が浅いけど、あっちはだいぶ昔から有名なパーティーだったわね」

「えぇ。リーダーのカタルスキーさんは自著も多く出版していて、冒険者の中ではトップクラスに有名な人ですよ」

「そ、そんなに……」


 今度は俺やミルフィたちが驚く。

 Sランクパーティーってことは……相当な実力者ってことだろうな。

 一体、どんな人なんだろう。

 ――って、そうじゃなかった。


「そのカタルスキーさんがどうかしたのか?」

「じ、実は……あのドン・ガーネスのところへ殴り込みに行ったみたいで……」

「えぇっ!?」


 いきなりとんでもない情報がもたらされた。

 悪名高いドン・ガーネスのもとへ、Sランク冒険者のカタルスキーさんが殴り込みに行くなんて……名のある冒険者の中には、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーに媚びる者も少ないって話だけど、どうやらカタルスキーさんの場合は違うらしい。


「数日前、ある冒険者が私たちのもとを訪ねてきたの。彼はドン・ガーネスに解錠依頼をしたら、法外な値段をふっかけられて、払えないと知るとまるで奴隷のようにこき使われたと訴えてきたわ。それ知ったカタルスキーさんは、これ以上冒険者たちが冷遇されるのを見てはいられないって……」


 それは確かにひどい話だ。

 ――が、待てよ。


「……リン」

「な、何?」

「それは誰からの訴えだったんだ?」

「名前は聞かなかったけど、中世的な顔立ちをした若い男だったわ」

「!?」


 その特徴――あの横取り屋バルテルと重なる。

 まさか、あのバルテルがドン・ガーネスのところへカタルスキーさんを向かわせるように仕向けた?

 だとしたら――これは罠だ。


「ね、ねぇ」

「うん?」

 

 何やら物言いたげに、リンが手を挙げる。


「さっきからちょくちょく名前が出ていたけど……あなたたちと霧の旅団ってどういう関係なの?」

「どうって……俺たちは霧の旅団の一員なんだ」

「えぇっ!?」


 今度はリンが驚いた。

 しまった。

 そのことをまだ説明していなかった。

 ――と、


「お願い! カタルスキーさんを助けて!」


 リンが俺の手を取り、瞳を涙でにじませながらそう訴えてくる。

 力になってやりたいが……相手はドン・ガーネス。

 今の俺たちが真っ向から立ち向かって勝てるかどうか――でも、カタルスキーさんをこのままにしておくのも心配だ。


「……少し、考えさせてほしい」


 俺ひとりの意見では決められないと判断し、みんなの意思を仰ぐことにしたのだった。


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