第181話 救出
風のダンジョンを探索中、突如聞こえてきた女の子の叫び声。
何やら必死に助けを求めている感じだったが……一体何が起きたのだろうか。もうこのダンジョンには悪事を働く輩はいないと思うのだが――万が一ということもあるので声のした方向へ駆けだす。
しばらく行くと、流れの急な川が目に入った。
あの大きな滝から流れ落ちた大量の水によって生み出された川だ。
よく見ると、川の中に人がいる。
女の子だ。
今にも折れそうな木の枝へ必死に掴まり、濁流に耐えている。
「待ってろ! すぐに助ける!」
とは言ったものの、この激しい流れに身を投じれば、間違いなく俺自身も呑み込まれて浮上できないだろう。これが魔法によって生みだされた水ならば、破邪の盾で打ち消すことができるのに。
どうしたものか、と足を止めて悩んでいる俺のすぐ脇を誰かが横切っていった。
「このアイテムを使います!」
それはジェシカだった。
ジェシカは背負っていたリュックからアイテムをひとつ取りだすと、それをためらうことなく溺れかかっている女の子へと向かって投げた。
そのアイテムとは、青色をしたロープであった。
片方の端はジェシカが手にしていることから、そのロープを頼りに女の子を救出するつもりらしい。
しかし、とても両手を放してそれをキャッチできるような状態ではないのだが――そう思っていると、ロープはまるで生きているかのように動きだした。
「あ、あれは!?」
「このロープは投げた人の意思に合わせて動くことができます。もっとも、使用時間はかなり短く、拘束力も強いわけではないので、今みたいな緊急事態用なのですが……アンリーさんのお店に売っていたので思わず衝動買いをしてしまいましたが、まさかこんなところで役に立つとは思ってもみませんでした」
さすがはアイテムマニアのジェシカ。
珍しいアイテムとあればなんでも試してみたくなる――その好奇心が大きく役立ったな。
ロープは木にしがみついている女の子の体に巻きつくと、あとはここから先は力勝負になる。
「任せなさい!」
真っ先に名乗りを上げたのはイルナだった。
もちろん、イルナひとりに任せておくわけじゃない。
俺も渾身の力を込めて女の子を引っ張り上げる。
最初は怖がっていた女の子も、俺たちの必死の呼びかけに応じて必死に泳いだ。その甲斐もあって、なんとか救出に成功したのである。
「けほっ! けほっ!」
少し水を飲んだようで、しばらく咳をしていた女の子だが、それが落ち着いてくると俺たちの方へと視線を向けて深々と頭を下げた。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「いやいや、困ったときはお互い様だよ」
「そういうこと」
「ですね」
女の子の無事を確認すると、今度は自己紹介が始まった。
彼女の名前はリンと言い、俺たちよりも少し年下の十三歳だという。
「ですが、どうしてあの川に?」
「あぁ……えぇっと……」
何やら言いにくそうにしているリン。
事情アリってわけらしいが……彼女くらいの年の女の子が、単独でダンジョンにいるというのはかなり稀な例だと思う。――父親がマッスルスライムになって、その呪いを解くために奮闘していたトーネみたいなのは、まさにその稀な例だけど。
とりあえず、もう少し踏み込んで聞いた方がよさそうだな。
何か、協力してあげられるかもしれないし。
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