第180話 風のダンジョンの楽しみ方

 ダスティンさんに教えてもらった場所へ向かうことにした俺たち。

 そこにあったのは――大きな滝だった。


「す、凄い迫力だな」

「え、えぇ……」

「こんな凄い滝……初めて見ました」

「わ、私も」

「私もです……」

「同じく」


 全員、口を半開きにしながら目の前の瀑布に視線が釘付けとなった。

 断崖から流れでる大量の水――それが地上へ向かう途中に虹ができていた。距離はあるが、水しぶきがここまで飛んできている。本当に、圧巻という言葉がピッタリと合う景色だった。


 さて、ダスティンさんの話では、この辺りにレアモンスターがいるらしいが。

 

「……特に何もいないな」

「ですね」


 他のメンバーが滝に夢中となっているため、ジェシカとともに周辺を見て回るが、特にこれといって目立った点はない。

 風のダンジョン……ここは草原のダンジョンと同じく、初心者向けのダンジョンって感じだな。

 とはいえ、この素晴らしい風景を見るために潜りたいと希望する冒険者いるという気持ちも分からなくはない。超激レアのお宝を手に入れ、億万長者になりたいって願望が特になく、その日を暮らしているくらいの稼ぎがあればいいという冒険者にはうってつけのダンジョンかもしれないな。


 お宝をゲットするという大前提を無視してまで潜りたいと思わせるダンジョン――それは、世界的に見てもかなり稀有な存在といえるだろう。


「さて、このままじっくり絶景を堪能するっていうのも悪くないが……さすがに手ぶらで戻るわけにはいかないな」

「ですね」

「あっ! だったら、二手に分かれて探索しない?」


 唐突なイルナからの提案。

 しかし……それは面白そうだ。


 というわけで、残り時間は二手に分かれてダンジョンを探索することとなった。




「さあ! あっちのチームに負けられないわよ!」

「頑張ってまいりましょうか」

「おう」


 公正にくじ引きで決められたチーム。

こちらは俺とイルナ、そしてジェシカの三人で構成されていた。

 ちなみに、非常事態が発生した場合は打ち上げ式の信号弾で知らせることになっている――が、あっちはあっちで回復士のミルフィに歌唱魔法を使いこなすマシロ、そしてイルナにも負けない格闘戦の達人トーネという盤石の組み合わせ。よほどのことがない限り、呼び出しがあることはないだろう。


「早速モンスター発見!」

「あれはリーフスライムですね!」

「サクッと狩ってやるわ!」


 やたらテンションの高いふたり。

 前に探索した廃棄のダンジョンはかなり特殊で、普段通りに活動はできなかった。それに比べて、この風のダンジョンはオーソドックスなタイプのダンジョン。あまり態度には出していなかったが、こうして自由に体を動かせて嬉しいのだろう。イルナはともかく、ジェシカまで立派な冒険者として開花したなぁ。


「あぁ……残念。小さな白い宝箱ね」

「期待度としては最低ですねぇ」

「ははは、そういうこともあるさ。次へ行ってみよう」


 なんだか俺まで嬉しくなって、テンションが上がってきたぞ。

 この調子でドンドン探索をしていこうと思った――その時、



「助けてぇ!」


 

 突然、女の子の叫び声が。


「な、何!?」

「一体どこからでしょう!?」

「あっちからだ!」


 さっきの叫び声はこの近くを流れる、あの大きな滝の水がつくり上げた川の方から聞こえてきた。

 もしかしたら、誰かが流されているのかもしれない。

 それなら事態は急を要する。

 俺たちは探索を中断し、川へと向かって走りだした。

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