第162話 風の町・ラウーフ

【お知らせ】


第6回カクヨムコン特別賞&ComicWalker漫画賞受賞

「絶対無敵の解錠士」


《レーベル》スニーカー文庫

《イラスト》UGUME先生

《発売日》11月


 書籍版でしか読めないオリジナルエピソードもあります!


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 よろしくお願いいたします。


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 風のダンジョンからもっとも近い位置にある町――ラウーフ。

 まずは宿を確保するため、俺たちはこの町を訪れた。


「結構人がいるわね」

「はぐれないように注意してくださいね、イルナさん」

「子どもじゃないんだから平気よ!」


 ジェシカに子ども扱いされて憤慨するイルナ。

 しかし、ジェシカの言う通り、ここは人通りが多い。遠くから見た感じだとそれほど大きな町に見えなかったから油断していた。

 すると、


「こうするとはぐれなくて済むんじゃないかしら」


 ミルフィはそう提案した直後、俺の右腕に自分の腕を絡める――端的に言えば、腕を組んでいる状態だ。


「ミ、ミルフィ!?」

「これはあくまでもはぐれないための対策よ、フォルト」


 そういう割に、なんだか楽しそうに見えるけど……


「じゃ、じゃあ、私は反対側の腕を……」

「私は背中」


 ミルフィの行動に触発されて、マシロとトーネが左腕と背中に身を寄せる。


「しまった! 乗り遅れた!」

「もぉ、イルナさんのせいですよ?」

「なんでよ!」


 三人に先を越されたイルナとジェシカ――と、


「では、私はイルナさんと腕を組むことにしましょうか」

「えっ? で、でも、女同士よ?」

「私は構いませんが? ――もしかして、私と腕を組むのが嫌でしたか? すいません、そのことに気づけずに……よよよ」

「! ちょ、ちょっと、泣かないでよ!」


 明らかに嘘泣きだが、イルナは信じ込んでいるようだ。

 相変わらず……ジェシカの手中で踊らされている感が凄い。


「だ、大体、ジェシカの方こそ、私となんか腕を組んでも平気なの?」

「むしろ望むところですか?」

「は、はあ!?」

「イルナさんって、いい匂いしますからねぇ。それに、長くて赤い美しい髪もとても魅力的だと思います。私が男性だったら放ってはおきませんね。――訂正します。私が女性でも放っておきません」

「な、何っ!? ち、近いわよ!?」


 グイグイと顔を近づけていくジェシカ。

 ま、まさか、本当に――


「冗談ですよ」

「!? ジェ、ジェシカ~……」

「あっ、魅力について語った部分は全部本当ですけどね」

「もう!」


 相変わらず楽しそうだな、ふたりとも。

 さて、いつも通りのやりとりを終えたところで、本格的に冒険の準備に入るとするか。


「とりあえず、ダンジョンの情報を集めるチームと宿の確保に動くチームで別れよう」

「「「「「了解」」」」」


 ちなみに、チーム分けは――情報収集チームが俺、イルナ、マシロの三人。宿の手配がミルフィ、ジェシカ、トーネということになった。


「俺たちはこの町のギルドへ行くとしようか」

「やっぱりそこが一番情報集めやすいわよね」

「レッツゴー」


 町の入り口に立てかけてあった、案内看板を見てギルドの位置を把握すると、俺たちは早速そこへ向かった。


 ギルド内は多くの冒険者でひしめき合っており、大変な賑わいだった。

 武器を購入したり、情報交換をしたり、まさに冒険者らしい空気に満ちている。


「活気があっていいな」

「これは期待できるかもね」

「楽しみ」


 そんな空気にあてられた俺たちも、風のダンジョン探索にヤル気アップ。ここではどんなお宝と巡り合えるのか……少々浮かれ気分だった俺たちだったが、



「なんだとこの野郎!」



 突然の怒号で、そんな浮ついた気分は吹き飛んでしまった。


「もういっぺん言ってみろ!」

「何度でも言ってやる。――おまえらみたいな三流冒険者以下の冒険者は目障りだ。消え失せろ」


 どうやら、冒険者同士がもめているらしい。

 ひとりは左腕にドラゴンのタトゥーが入ったいかつい大男。

 その大男ともめているのは、中世的で端正な顔立ちをした若い男だった。


「まったく、やかましいわね。もう少し周りの迷惑を考えなさいよ」


 幼い頃から冒険者パーティーに所属しているイルナにとって、これくらいの小競り合いは慣れたもの――だが、マシロはまだ慣れていないようで、怯えた目をしていた。

 ……いや、違う。


「あ……あぁ……」


 怯え方が尋常ではない。

 もしや……あのふたりのどちらかは、ドン・ガーネスの関係者なのか?

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