第153話 踊る骸骨

 マシロの歌唱魔法でダンジョンお全体像を把握し、出口へと向かって進む俺たち。

 これでひと安心――と、油断はできない。

 道のりは分かったが、俺たちを狙ってモンスターが襲撃してくる可能性は大いに考えられた。


 そもそも、俺たちはこのダンジョンの特性をまだ把握していない。

 砂漠のダンジョンや塔のダンジョン、さらには氷雪のダンジョンのように、ひと目で「そういう場所なんだ」と認識できるものは何ひとつなく、延々と岩肌が伸びており、代わり映えのしない背景が続いていた。


「なんていうか……殺風景なところね」

「ホントねぇ」

「でも、その分ちょっと不気味ですね」

「そうだなぁ」

「ちょっと怖い」


 氷雪のダンジョンで長らく生活し、ダンジョン慣れしているはずのトーネが怖がるとは……でも、確かに、なんだか不気味な雰囲気が漂っている。


 と、


「!? ま、待ってください!」


 先頭を進んでいたマシロが慌てた様子で停止を呼びかける。


「な、何かあったのか?」

「い、今……そこで何か動いたような……」

「なんだって?」


 もしや、モンスターか?

 俺はマシロの指さす方向にランプを掲げる。

 そこにあったのは――白骨化したモンスターの亡骸だった。


「ほ、骨?」

「大きさから見て、ゴブリンあたりでしょうか」

「ゴブリンは厄介ね……」


 ミルフィが困ったような声で言う。

 そう……ゴブリンは厄介だ。

 無駄に知恵はあるし、集団での戦い――というか、あれはただの襲撃だな。ともかく、本能のままに暴れ回るダンジョンの厄介者だ。場所によっては、ゴブリンが出たために閉鎖されたダンジョンもあると聞く。


「みんな、警戒を怠らないように」


 俺はそう呼びかけ、出口へと急いだ。

 と、その時、


「きゃあっ!?」


 突然、ジェシカが叫んだ。


「こ、今度はどうしたんだ!?」

「いえ、その……今、この骨が動いた気がして」

「えっ? 骨が?」


 そんなバカな。

 岩壁にもたれかかっていたところへ俺たちが来たものだから、振動で傾いたんじゃないのか――と思った次の瞬間、その白骨死体から魔力を感じた。


「「「「「「!?」」」」」」


 慌てて飛び退く俺たち六人。

 なぜ……死んでいるはずの骨から魔力が……?


 そんな疑問が浮かぶ中、やがて、


「!」


 白骨死体は突然起き上がった。


「「「「「「!?!?!?!?!?!?!?」」」」」」


 俺たちはそのあり得ない光景を前にして、声なき絶叫をあげる。


「どどどど、どうなってんのよ!」


 最初に言葉を取り戻したイルナがなぜか踊っている白骨死体を指さして叫んだ。

 

「お、俺にも何がなんだからサッパリで……」

「ですが、敵意はないようですね」


 ジェシカが冷静に現状を分析する――が、よく見ると体は小刻みに震えていた。平静を装っているが、怖いんだな。

 俺は怖いというより、不気味……いや、不思議に思っていた。

 なぜ、白骨が動きだしただけでなく、小粋に踊りだすのか。

 

 その謎を知ろうと、白骨に近づこうとした時だった。



「おやおや~? 今日は随分と来客が多いですね~」



 俺たちの背後から、見知らぬ男性の声が聞こえた。


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