第154話 謎のダンジョンに住む者

 俺たちの前に現れた謎の踊る骸骨。

 それだけでも驚きなのだが、背後から迫ってきていた第三の存在がさらに俺たちを混乱させる。


「だ、誰ですか!?」

「それはこちらのセリフですがね~。まあ、いいでしょう。私はマルクスというもので、このダンジョンに暮らしています」


 かぶっていた黒い帽子を取り、お辞儀をしたマルクスさん。

 年齢はリカルドさんと同じくらいで、三十代後半から四十代前半ほど。帽子の下にあったのはダンジョンの闇と同化するほど黒い髪で、よく見ると目の下にはクマがある。さらに、全身はやせ細っているように映り、頬をこけている。どう見ても健康体とは思えなかった。


「お、俺たちは冒険者で、このダンジョンに迷い込んだんです」

「迷い込んだ? それは妙な話ですね~。普通、冒険者と呼ばれる者たちはダンジョンへ潜る前に入念な準備を整えるそうですが」

「え、えぇ……でも、俺たちの場合は状況が特殊というか……」


 うまく説明できずにいると、マルクスさんは何かを閃いたのか、ポンと手を叩いた。


「もしかしたら、つい先日、この辺りで保護したいかつい男性も、あなたたちと同じ冒険者なのかもしれませんね~」

「!? いかつい冒険者!?」


 途端にざわつく俺たち。

 そうか……それでさっき、「来客が多い」って言ったのか。

 その豹変ぶりに、今度はマルクスさんの方が驚いた。


「な、何かありましたか? もしかしてお仲間? そんな風には思えませんでしたが」

「いえ、そうじゃなくて――そのいかつい冒険者は、俺たちが捜していた人なのかもしれないんです!」


 つまり、アメリーの父親という可能性がある。


「それなら……うちへ来るかい?」

「! は、はい! ぜひ――」


 確認のためにマルクスさんの家に行くことを告げようとしたら、服を思いっきり引っ張られた。犯人はイルナだ。


「……大丈夫なの?」

「? 何が?」

「あの人……見るからに怪しいわよ?」


 イルナに指摘され、再びマルクスさんの方へ視線を向ける。

 ……うん。

 どこからどう見ても怪しい。

 怪しくない部分を見つける方が難しいってくらい怪しかった。


 とはいえ、もはや手がかりはそれしかない。

 せっかくここまでたどり着いたのに、手ぶらでは帰れないしな。


「アメリーのためにも、せめて名前くらいは確認していかないか?」

「……そうね。分かったわ」

「みんなもそれでいいかな?」


 俺の呼びかけに、ミルフィたちは静かに頷く。

 よし、これで決まりだな。


「すいません、マルクスさん。案内していただいてよろしいですか?」

「ああ、もちろん。こっちだよ」


 マルクスさんが歩きだすと、その後ろを例の骸骨がついていく。


「あ、あの」

「何か?」

「その骸骨は……」

「ああ、こいつは――僕の使い魔みたいなものさ」

「使い魔?」

「そこのワンちゃんと一緒だよ」


 そう言って指さしたのは、マシロに抱かれているテリーだった。……ということは、この動く骸骨も宝箱からドロップした卵からかえったってことか?


「どこで使い魔の卵を?」

「卵? ――ああ、どこぞの冒険者がここへ捨てていったものを開けたんですよ」

「えっ?」


 ……なんか、いろいろと気になるワードがあった。

 まず、冒険者が捨てたという点。

 これは、解錠レベルが高すぎて開けられる解錠士アンロッカーが見つからず、おまけに希望する額で売ることも叶わなかったので捨てたってことなのか?


 それから、今、マルクスさんは「開けた」と言ったが、もしかして――


「あ、あの、マルクスさんって……」

「君と同業ですよ」

「!? じゃ、じゃあ!?」

「えぇ――僕はA級解錠士アンロッカーなんですよ」

「「「「「「A級解錠士アンロッカー?」」」」」」


 またしても出てきた聞き慣れない言葉に、思わず俺たちの声がピタリと重なった。

 解錠士アンロッカーはまだしも、その上にあるA級ってなんだ?

 そんな表現初めて聞いたぞ?

 これは……さらに追及していく必要がありそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る