第152話 マシロの進化

 白い髪をなびかせながら、左右で色の違う瞳がジッとこちらを見つめている。

 その表情はこれまでになく自信に溢れていた。


「一体……どうしたんだ?」

「マシロさんの歌唱魔法で位置を把握できたんですよ」

「そ、そんなことができるのか!?」

「音の響きで位置を特定できるんです」

「凄いじゃない!」

「でも、歌唱魔法にそんな力があったなんて……」

「知らなった」


 ミルフィやトーネの言葉は俺やイルナにも当てはまる。

 だが、どうやらジェシカは知っていたようだ。


「実は……マシロさんはずっと修行をされていたのです」

「修行?」


 ジェシカの語るマシロの修行。

 それは、パーティーで彼女しか扱えない特殊な魔法――歌唱魔法を強化するというものだった。


「歌唱魔法の強化……そんなことができるのか?」

「以前、ジェシカさんに相談したことがあったんです。私の魔法を強化できないって」

「そこで、お休みの時にいろいろと書店を巡ってみて――先日、とうとう歌唱魔法に関する文献を発見したんです」

「でも、どうしてあたしたちにも黙っていたのよ」


 イルナの言う通り、そういうことなら俺たち全員で協力したのに。


「サプライズをしようと思ったんですよ」

「私は……このパーティーでお荷物でしたから」

「そ、そんなことはないよ! 現に、今だってテリーのお世話をしてくれているじゃないか!」


 マシロに抱きかかえられたテリー。

 氷雪のダンジョンでは大活躍だったが、今回はさすがのテリーでもここの謎を解くことはできなかった。


 それはそうと、マシロがそんな風に思っていたとは知らなかった。

 ――でも、今は見違えるくらい自信に溢れている。

 この様子だと、どうやら位置特定以外にも効果のある歌唱魔法を会得したようだ。


 気弱だったマシロが歌唱魔法を強化して自信を得た。

 それがパーティーにもたらした影響は大きい。


「この魔法なら、出口までの正しい道順が分かります」

「それは凄い! 頼むよ!」

「お任せください!」


 右も左も分からない未知のダンジョン。

 どっちへ進めばいいか迷う中、マシロの歌唱魔法が出口まで案内してくれるという。


「――――」


 早速、マシロが歌声を披露する。

 相変わらず聞き惚れてしまうな。


 俺たちと行動を共にする前は、王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーの中でも悪名高い、あのドン・ガーネスが経営するシアターで歌姫をしていたらしく、歌唱魔法を使用する際にはその当時のことを思い出してしまうこともあったようだ。


 しかし、今やマシロの歌唱魔法は俺たちにとって欠かせない存在へと昇華した。

 これからは過去の嫌な記憶を埋め尽くすほど、俺たちと楽しい冒険の旅をする――歌声からは、そうした決意がにじみでているようにさえ聞こえた。


「こっちです! そう遠くないみたいですよ!」

「よし。まずはここから出て、それから改めて作戦を練り直そう」


 俺の提案にみんな賛同してくれた。

 もちろん、出ただけで終わりというわけじゃない。

 俺たちの最終目的は行方不明となったアメリーの父親を捜すこと。


 このダンジョンにいるか、或いは脱出しているのか。


 それを確認するためにも、まずは外に出て現在地を確認しよう。

 マシロを先頭にして、俺たちはこの正体不明のダンジョンから出るため、モンスターの襲来を警戒しながら進んでいった。

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