第133話 遭遇

 雪に埋もれているスノー・フェアリーをなぜテリーが探しだせたのか――そのヒントは匂いにあった。

 テリーの嗅覚が、スノー・フェアリーから放たれるわずかな香りをかぎわけ、その場所に直行するのだ。


「犬に匂いを追わせる……その発想はなかったな」


 丸太のように太い腕を組みながら、呪術によってマッスルスライムに姿を変えられたゴルディンさんは打ち震えながら言うけど……たぶん、普通の犬を使っても無理だと思う。うちのは可愛い見た目をしているが、あれで立派な使い魔だからなぁ。


 ともかく、スノー・フェアリーの匂いを追って、俺たちは氷雪のダンジョンを駆け回った。

 匂いで場所が特定できるテリーの存在は心強い――が、それでも数が少ない、開花時間が極めて短い、というふたつの問題点は残っている。

特に後者が厄介だ。

 苦労して見つけても、さっきみたいにすぐ枯れてしまっては元も子もない。一応、ゴルディンさんはスノー・フェアリーが枯れないよう保管できる特殊素材のケースを所持しているらしく、見つけ次第すぐにそいつへ保存すれば問題ない。とはいえ、スピード勝負であることには変わらなかった。


 さらに、もうひとつ条件がある。


 それは、俺と同じ解錠士アンロッカーであるウィローズ率いるテンペストという冒険者パーティーの存在だ。

 ウィローズはただの解錠士アンロッカーではなく、マシロを苦しめたり、ゴルディンさんをマッスルスライムへ変えてしまった呪術師を雇ったりと、強大な力を有しているドン・ガーネスと同じ王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーだ。


 まだ、その本質を見抜いていないため、なんとも言えないが……バッシュさんのようなタイプとはちょっと思えない。彼女もまた、さらなる力を求めて自身の持つ力を悪用しようとしているのか。


 ともかく、そんな彼女のたちの目的は俺たちと同じスノー・フェアリー。

 入手困難かつ、非常に数が少ない呪術を解くアイテムであるスノー・フェアリーを求める者は少なくない。

 恐らく、高値で売りさばくつもりなのだろう。


「栽培でもできれば違うんだろうけどなぁ」

「それはさすがに難しいかもね」


 イルナの言う通り、それが可能ならばとっくに実現されているだろうな。

 

 クンクン、と地面に鼻を近づけて探索するテリー。

 あっちへ行ったら首を傾げ、こっちへ行っても首を傾げる。

 さっきは偶然近くにあったからよかったが、ゼロから探しだすとなるとやはり難易度はまったく違うようだ。


 ――と、その時、


「ぐおおおおおっ!!」


 モンスターの雄叫びだ。

 この声は……フロストベアか!

 かなり近いぞ!


「みんな、戦闘態勢だ!」


 俺が声をかけた瞬間にはすでに全員が戦闘態勢をとっていた。

 やがて、そのフロストベアが姿を見せる。


「!? で、でかい!?」


 トーネが倒したフロストベアよりもさらにひと回り大きいサイズ。

 もしかして……こっちが成体ってことなのか?


 パワーもスピードも段違いだろうそのフロストベアと対峙した――次の瞬間、



「邪魔ですわ」



 短い言葉とともに、強烈な炎魔法が放たれ、フロストベアの全身を包んだ。

 ……なんてこった。

 ここでとうとう一番会いたくない連中と遭遇してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る