第125話 新たな解錠士《アンロッカー》

王宮解錠士ロイヤル・アンロッカー……まさか、ドン・ガーネスじゃないでしょうね!?」


 イルナが店主へと詰め寄る。

 俺たちにとっての最悪のシナリオはそれだ。

 もしそうだとするなら、今すぐここから撤退しなくてはならないが――


「ち、違います!」


 即座に否定され、ホッと胸を撫でおろす俺たち。

 となると……これまでに遭遇していない、新しい解錠士アンロッカーってことになる。できることなら、バッシュさんみたいな良識ある人だといいが。

 するとその時、宿屋のドアが乱暴に開け放たれた。


「やれやれ、今日は散々だったわね」

「まったくだわ」

「早くお風呂入りた~い」


 やってきたのは若い女性の冒険者たち。

 別に珍しくもなんでもないのだが――驚くべきはその人数だ。


 ひとりふたりどころの騒ぎじゃない。

 少なく見積もっても二十人はいるだろうか。しかも、他のメンバーの話を聞く限り、この宿屋以外にもメンバーいるらしい。とんでもない大所帯だな。

 というか……満室の原因は彼女たちか。


 ……それにしても、男がひとりもいないな。

 単純に男女別れて宿屋に泊まっているのかとも思ったが、その場にいる女性冒険者たちの口から出てくる仲間らしい人物の名前もすべて女性っぽい。

 まさか、女性しかいないパーティーなのか?

 俺たちが呆気に取られていると、彼女たちをかき分けて、二十代前半と思われる女性が少しウェーブのかかったオレンジ色の長い髪をなびかせながらカウンターへと向かう。

 どうやら、あの人がリーダーらしい。


「お、おかえりなさいませ、ウィローズ様」


 ウィローズと呼ばれたその女性の首にはペンダントが光っている。

 ――ただ、光っているのは宝石ではなく、鍵だった。

 やはり……彼女がリーダーの王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーか。


「ほ、本日の成果はいかがでしたか?」

「苦労はしたけど、上々でしたわ。――ところで」

「は、はい!?」

「なぜこの宿屋に男の客がいるのかしら?」


 ウィローズの鋭い眼光が俺に向けられる。

 男の客と言っていたが……男を敵対視しているのか?


 直後、イルナたち四人が俺を囲むように密着。

 その様子を見たウィローズは先ほどの怖い顔から一転し、朗らかで柔和な笑みを浮かべた。


「あらあらあら、可愛らしい子たちですわねぇ」


 どうやら、四人は彼女のお眼鏡にかなったらしい。


「な、何よ、あなたは!」

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたわね。わたくしはAランクパーティー《テンペスト》のリーダーでウィローズという者ですわ」


 テンペスト……聞いたことはあるな。

 確か、大陸でもトップクラスの規模を誇るパーティーだったはず。

 でも、まさか構成しているメンバーが女性ばかりとは知らなかった。


「あなたたち、そんな男など捨ててわたくしのところへ来なさいな。わたくし――こう見えて王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーなんですのよ?」


 首にかけた鍵を見せびらかすウィローズ。

 恐らく、これまでもそうやってよそのパーティーから女性をかっさらってきたのだろうが……あいにく、うちのメンバーには効果がない。


「悪いけど、お断りよ」

「そうね」

解錠士アンロッカーでしたら、私たちのパーティーにも飛び抜けて優秀な方がいらっしゃいますし」

「わ、私も! 今のパーティーを抜ける気はありません!」

「なんですって!?」


 全員から拒絶され、困惑するウィローズ。


「くっ……あなた、名前は!」

「あ、え、えっと、フォルトです」

「覚えましたわ……フォルト」


 物凄い形相でにらまれているけど……俺何もしていないのになぁ。




 結局、宿屋はウィローズ率いるテンペストが漏れなく貸し切っているとのことだったので、俺たちは外でテントを張ることに。


「すまない、みんな」

「いいのよ。あたしたちとしては、みんなが一緒にいられたらそれでいいんだから。――ね?」


 イルナの呼びかけに、ミルフィとジェシカとマシロは「その通り!」と声をそろえる。

 いいメンバーに恵まれてホッとすると同時に、あのウィローズという王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーが気になった。


 果たして……彼女はなぜ氷雪のダンジョンに潜っているのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る