第98話 悪徳解錠士《アンロッカー》の狙い

 フローレンス伯爵は悪徳解錠士アンロッカーに腹を立てているようだった。


「国王陛下には以前から進言していたのだ。法整備をして、これ以上一部の解錠士アンロッカーに権力が偏るようなことがないようにしないと……いずれとんでもないことが起きる」

「と、とんでもないこと?」

「国崩し――クーデターだよ」

「「「「「!?」」」」」


 その言葉に、俺だけじゃなく、その場にいた全員が固まった。

 最初は飛躍させすぎじゃないかとも思ったが……うん。よくよく考えてみると、確かにあり得ない話じゃない。

 現に、ドン・ガーネスは貴族や有力な商人たちをシアターに集めて何かを画策しているようだし……それこそ、クーデターの計画かもしれない。


「で、でも、そうなったら騎士団が――」

「騎士団の連中が、いつまでも国王に忠誠を誓っているとも限らん。少なくとも、下っ端の連中は寝返る可能性がある」


 もし、騎士団の中に内通者がいたとしたら……クーデターを起こすのに、これ以上心強い者はいないだろう。それこそ、巨万の富を得ているドン・ガーネスならば、大金をはたいて騎士たちを買収するかもしれない。


「……年寄りの思い込みであってもらいたいものだがなぁ。幸いというべきか、バッシュや君のように正しい心を持った解錠士アンロッカーや騎士や貴族もいる。今すぐに国家崩壊レベルのクーデターが起きるとは思えんが」


 あくまでも将来的な不安。

 しかし、それはきっと――そう遠くない未来に現実のものとなるだろう。

 けど、フローレンス伯爵やバッシュさん、他にも多くの人々が、そんな最悪の未来を回避しようと動いている。


「いずれ……君の力を借りなければいけない時が来るかもしれない」

「その時は喜んで協力をしますよ」

「当然、私たちも!」

「そうね」

「わ、私も、微力ながら協力します!」

「マシロさんのこともありますしねぇ」

「かっかっかっ! 頼もしい若者ばかりで嬉しいよ!」

 

 フローレンス伯爵は膝をバシバシと叩きながら、嬉しそうに叫んだ。


「霧のダンジョンの件も含め、君たちのことを大いに気に入った!」

「ありがとうございます!」


 有力な貴族であるフローレンス伯爵に気に入られる。

 単純に大きなアドバンテージになるのだが、それ以上に、俺はこのフローレンス伯爵に気に入られたという事実が嬉しかった。


「ところで……」

 

 ここで、伯爵が話題を変えた。


「君たち、次の目的地は決まっているか?」

「えっ? い、いえ、まだ……」

「そうか。だったら――ちょっと依頼したいことがある」


 早速、次の依頼か。

 今度は一体どんなダンジョンなのか……連続で難関ダンジョンを突破しているせいなのか、どこかワクワクしている自分がいる。周りを見ると、どうやら他の四人も同じ気持ちのようで、表情には薄っすら笑みが浮かんでいた。


 しかし、ここで伯爵から意外な事実を告げられる。


「頼みたいことと言っても、今回はダンジョン絡みの案件じゃないんだ」

「へっ?」


 思わず間の抜けた声が漏れた。


「君たちにはドロス島へ向かってもらいたい」

「「「「「ドロス島?」」」」」


 あまり聞いたことのない島だな。

 そこに何かあるのか?


「詳しい依頼内容は……君たちが島に着いてから伝える」

「俺たちが島に着いてから……ですか?」

「そうだ。それと、用意しておくアイテムを執事にまとめさせておいた」

「は、はあ……」

「この紙に書かれたアイテムを三日以内に揃えておいてくれ。三日後にこちらから使いを送る」

「わ、分かりました」


 ……なんだか、よく分からないうちに、次の仕事が決まった。

 ドロス島。

 そこに何が待っているっていうんだ?

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