第99話 旅支度

 ドロス島。

 フローレンス家が領地として治めている港町カイザックの沖合に存在する小さな島。

 そこが、俺たちの次の目的地だ。

 なんでも、ここにはフローレンス伯爵が所有する別荘があるらしく、暑い時季にはそこへバカンスへと出かけるらしい。

 綺麗な海。

 おいしい海鮮料理。

 おまけに天然温泉まであるとか。

 いっそリゾート地として開放した方がよさそうだ。




 伯爵の屋敷から戻った俺たちは、早速用意するようリストアップされたアイテムの入手に乗り出した。

 しかし、


「これは……」


 そのリストを見た時、俺は我が目を疑った。

 というのも、


 ・水着

 ・着替え

 ・体力&状態異常回復薬


 リストアップされたアイテムが違和感だらけだった。

 果たして、水着でこなす依頼とはなんだろう。

 回復系アイテムも揃えて来いって書いてあるけど……やっぱり戦闘があるってことなのかな。或いは遊び疲れてもいいようにという配慮――なわけないか。

 伯爵の真意は見えてこないが、とりあえずそんなわけで、俺たちは馴染みのアイテム屋へ赴き、水着を選ぶことに。

 ここで大いにテンションを上げたのが女子陣だ。


「どれにする?」

「これってどうでしょうか?」

「ちょ、ちょっと大胆すぎる気が……」


 ミルフィ、ジェシカ、マシロは水着選びに夢中。


「ちょっと! これは仕事の一環何だから真面目に選びなさいよ!


 そう語るイルナの手にもしっかりと水着が。

 口ではあんなことを言っているが、心の中はウキウキなんだろうな。

 無理もない。

 文面だけ見たら、バカンスへのお誘いだし。まあ、依頼が終わったら海で遊んでもいいよってことなのかな。

 とはいえ、浮かれてばかりもいられない。

 これで大真面目な依頼だったらどうなるか……一応、俺だけでもアイテムを取り揃えておこう。男の水着なんてそう選ぶのに時間はかからないし、こっちに注力した方がよさそうだ。


「ねぇ、フォルト。ちょっとこっちに来て」


 アイテムを選んでいると、ミルフィに呼ばれた。

 何やら手招きをしているのでそちらの方向へ行ってみると、そこは試着室だった。

 他の三人が見当たらないということは、みんなこの仕切りで守られた向こう側の空間にいるってことか。


「ミルフィ。ここに何が――」

「えいっ♪」


 なぜ呼ばれたのか尋ねようとしたら、いきなり背中を押された。

 その勢いのまま試着室へと突入する。

 待っていたのは、


「どうですか、フォルトさん。似合っていますか?」

「ど、どうでしょう?」

「さ、さっさと感想を言いなさいよ!」


 水着姿のジェシカ、マシロ、イルナの三人。さらに、後から入って来たミルフィもいつの間にか水着姿だった。


 狭い空間に男子ひとりと女子四人。

 どこを向いても肌色しか目に入らない。



 結局、ひとりひとりに水着の感想を伝えるまで、俺は試着室から出ることができなかったのだった。


 ……果たして、無事に次の依頼をクリアできるだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る