第97話 フローレンス伯爵とバッシュ

 俺はフローレンス伯爵に霧のダンジョン攻略までの経緯を語った。

 その際、俺は自分の鍵についても話した。

 最初は話そうかどうか迷っていたが――俺の話を聞くフローレンス伯爵の表情を見て、真相をすべて語ろうと決意した。


 フローレンス伯爵の表情。

 それはとても貴族とは思えなかった。

 なんというか……もっと野性的で、どちらかというと冒険者に対して話しているような感じがする。身にまとうそのオーラは、どことなくリカルドさんを彷彿とさせた。だからふたりは馬が合うのかな?


 やがて、俺の話が終わると、


「ふむふむ」


 何かを思案するように数回頷いた後、パンと勢いよく膝を叩いて、


「よぉくやってくれたぁ!」


 凄まじい大声で俺たちの功績をたたえてくれた。


「あのダンジョンの対応にはワシも苦慮しておったが……そうか。まともに運用できそうなダンジョンに生まれ変わったか」


 フローレンス伯爵は高らかに笑い、それが落ち着くと、


「これで、ペドロの頑張りもようやく報われるな」

「! ペドロ町長をご存知なんですか?」

「まあな。あの地域一帯は騎士団が演習地として利用したがっていたが……昔からペドロを知る身としては、それは忍びなくてな。なんとか考え直してもらえるよう交渉し続けてきたが、ダンジョン運営を再開できるとなれば、もうあそこを欲しがったりはしないだろう」


 ……フローレンス伯爵は、ペドロさんのことを気にかけていたのか。

 町の状況も把握し、騎士団に掛け合っていたとは……意外と人情派なのか?

 でもまあ、リカルドさんと話が合うってことは、きっとそうなんだろうな。あの人は貴族であっても、気に入らない人にはなびきそうにないし。


「そういえば、バッシュには会ったか?」

「えっ?」


 いきなり質問を投げかけられて、一瞬硬直。

 だが、すぐに、


「は、はい。会って話をしました」


 そう返した。


「ならいい。あの胸糞悪い小太りオヤジのことは耳に入っているようだな」

「こ、小太りオヤジ?」


 たぶん、ドン・ガーネスのことだろう。

 心当たりがあるマシロは、後ろで思わず「プフッ」と小さく噴きだした。ということは……あながち間違ってもいないってことか。

 というか、仮にも王宮解錠士ロイヤル・アンロッカーを小太りオヤジ呼ばわりするとは……フローレンス伯爵も、ドン・ガーネスの悪行に辟易しているってわけか。


「同じ穴の古狸ばかり集めて何やら悪だくみをしておるようだが……ふん! いつまでも自分の天下だと思われてはかなわん。ここいらで大人しくてもらわねばな」

「フ、フローレンス伯爵?」

「む? ――おぉ! すまんな! ついつい独り言を……いやいや、気にせんでくれ」


 それは難しい相談だなぁ。

 でも、ドン・ガーネスに対してそういう感情を抱いているということは、


「あ、あの」

「なんだ?」

「フローレンス伯爵は……バッシュさんとお知り合いなのですか?」

「知り合いどころの騒ぎじゃない。ヤツとは目的を同じとする同胞だ。――君も、志としては同じなのだろう?」

「っ!」


 なるほど。

 そこまで知られていたか。

 ――いや、バッシュさんがそう言及していなかったとしても、俺のこれまでの言動を見れば分かるか。ドン・ガーネスのお気に入りである、歌姫マシロをパーティーのメンバーとして迎え入れているくらいだからな。


「わははっ! 安心してくれ。ワシもバッシュと同じく、私腹を肥やすために悪行を重ねる王宮鍵師ロイヤル・アンロッカーが許せんタチでな。その点では、君たちのところのリーダーとよく話が合う」


 やっぱりそうだったか。

 だけど、さっきの口ぶりだと……なんだかフローレンス伯爵が俺たちとバッシュさんを引き合わせたみたいに聞こえる。


 この人からは、もっと情報を聞きだした方がよさそうだ。

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