第96話 フローレンス伯爵
厳重な警戒の中、俺たちはとうとうフローレンス伯爵と直接対面することとなった。
これまで、リカルドさんから話を聞くことはあっても、こうして面と向かって話をするのは今回が初めてである。
ましてや国内でも指折りの大貴族……ただ、この屋敷の警戒の厳重さはそれだけが理由というわけではないのだろうと、俺は直感していた。
やがて、俺たちはある部屋の前までたどり着く。
「この先で、フローレンス伯爵がお待ちだ」
案内役をしてくれた屈強な兵士が、野太い声でそう告げた。
一度、女子四人に「行くぞ」とアイコンタクトを送り、一斉に頷いたのを見てから、俺は部屋のドアを開けた。
そこは驚くほど広い空間だった。
俺たちの拠点としている家がそのままスッポリ収まってしまうんじゃないかってくらいに広いし、天井も高い。それほどの面積を誇る部屋でありながら、あまり物は見受けられない。
もっとこう、調度品やら骨董品やらがお行儀よく並んでいるのかと思ったが、そうした高価な物はなく、机やソファといったシンプルかつ最低限の家具があるだけだった。
「君たちの話はリカルドから聞いているよ」
黒い木製のイスに深く腰掛けた老人が、ゆったりとした口調で俺たちに言う。
立ち上がり、こちらをジッと見つめるその人物こそ――
「初めまして――だね? このゾルダン地方を治める領主ロイシャ・フローレンスだ」
簡単に自己紹介をしたフローレンス伯爵。
白い髪に白い髭……どちらもきっちり整えられており、いかにも「貴族」って感じの出で立ちだ。
――しかし、細められたその目は、まるで獲物を狙う猛禽類のごとく鋭い。さらに、来ている服の上からでも、その鍛え上げられた肉体の分厚さが伝わってくる。
静かなその気迫に、俺は一瞬気圧された。
だが、すぐに我に返ると、
「は、初めまして。霧の旅団のフォルトと申します。そしてこちらは俺の仲間たちです」
そう名乗って膝をつき、深々と頭を下げる。
それにならうようにして、女子四人も同じ行動を取った。
「後ろにいるのが、イルナ、ミルフィ、ジェシカ、マシロの四人だな?」
四人の名前もバッチリ把握しているのか。
直後、フローレンス伯爵の視線が俺へと注がれた。
「ほぅ……」
「な、何か?」
「いや何、あのリカルドがえらく褒めるものだから、どんな切れ者かと身構えていたのだが――これがどうして、随分と大人しそうな少年じゃないか。それとも、私はすでにまんまと君の策に引っかかっているのかな?」
「そ、そんなことないです! これが素の俺ですよ!」
「かっかっかっ! そうかそうか!」
整えられた白髭を撫でながら、どこか嬉しそうに言う伯爵。
な、なんだろう。
思っていたよりもだいぶイメージが違うぞ?
もちろん、いい意味で。
「君たちがZランクに指定されているあの霧のダンジョンに挑戦したというのは聞いている。ただでさえ攻略のしようがないのに、リカルドのヤツ、『近いうちにあいつらが答えを引っ提げてきますよ』なんていうものだから少しだけ期待しておったのだが――まさかここまで早いとは思わなかったぞ」
どうやら、すでにリカルドさんが挑戦のことを教えていたらしい。
――ならば、話は早い。
「でしたら、その霧のダンジョンでの報告をお聞き願います」
「うむ。聞こうじゃないか。君たちの冒険譚を」
伯爵は俺たちをソファへ座るよう促し、それから報告を聞くためにこちらへと顔を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます