第87話 霧のダンジョン攻略法

※昨日は修正前の話が投稿されていましたので、改めて投稿し直しました。




 準備を整えて、俺たちは霧のダンジョンへ向かった。

 昨日の件があるせいか、入り口前に立つとジェシカやマシロは少し不安な感じの表情をしていたが、

 

「大丈夫よ。もっと自信を持っていきましょう。私たちはこれまでもたくさんの困難を乗り越えてきたじゃない。今回だってきっと上手くいくわ」


 イルナがふたりの肩を叩きながら言う。

 自分もまだ恐怖心が残っているのだろうが……気丈に振る舞っているようだ。


「……そうですね。行動を御こなさなければ、何も解決しないですからね」

「ありがとうございます、イルナさん」


 ふたりにヤル気が戻った。

 

「やるわね、イルナ」

「ああ」


 俺とミルフィは感心する。


 気を取り直して、霧のダンジョン内へと足を踏み入れる。昨日と同じく、徐々に霧が立ち込めてきて視界が悪くなっていく。

 ここまでは昨日とまったく展開だな。


すると、


 グオオ!

 バアァ!


 複数のモンスターの声。


 近かったり遠かったり、距離感はまちまちだが、確実にヤツらは存在している。


「姿が見えないというのは厄介ね」


 イルナが苦々しく言い放ち、拳をぶつけ合う。

 モンスターの姿さえしっかりと視認できれば倒す自信はあるのに……しかし、向こうからも襲って来ないということはやはり違和感がある。


「…………」


 なんだか、引っかかるな。

 昨日の夜も感じたことだが、こうして現場に立ってみると、改めてその気持ちが強まった。


 仮に、モンスターたちがこの霧を苦にしないとするなら、俺たちはとっくに襲われているはず。それがないということは――やはり、向こうも俺たちの姿を確認できていないということになる。

 或は人を襲わない類のモンスターかもしれないが……鳴き声から推測する数を考えるに、すべてがそうだとは到底思えない。


 敵にもこちらの姿が見えていないなら――この深い霧の中で、モンスターたちはどうやって暮らしているのだろう。


 ふと、そんな疑問が浮かんできた。


「どう? 何か手がかりっぽいの見つかった?」

「わ、わかりません」

「今のところはこれといって不審な点はないわね」

「うぅ……」


 みんなも必死にこのダンジョンの攻略法を模索しているが、まだ誰も明確な打開策を見いだせないでいた。


 ……なんていうか、四方にモンスターがいるという状況下でありながら、みんな妙に落ち着いた様子だった。それはきっと、まだ実際に誰も襲われていないからなのだと思うが――


「……待てよ」


 誰も襲われていない。


 その事実が引き金になったかのように、頭の中で思考が爆ぜた。


 襲われていない――それは、言い換えれば、襲ってくる敵がいないということではないだろうか。鳴き声はするがその姿は見えない。霧の中を蠢く影さえ捉えることができないのだ。冷静になって振り返ったら、それってかなりおかしいことじゃないか?


「フォルト?」


 終始黙っていた俺の顔をのぞき込むミルフィ。

 そろそろ不安になってくる頃か。

 他のメンバーも顔色に緊張感が漂っている。


「――あっ!」


 そんな時、まるで神のお告げかのように、ある閃きが脳内を駆け巡った。

 早速実行に移そうと、俺は鍵を構える。


「ど、どうかしたの、フォルト」


 見えない敵へ鍵を向ける俺を不思議そうに眺めるイルナ。

 ただ闇雲に構えているわけじゃない。

 俺はその真意をみんなに伝えた。


「みんな、聞いてくれ――今から俺はこの霧を施錠ロックする」

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