第77話 陰で動く者たち【???Side】
フォルトたちが塔のダンジョンを攻略してからしばらく後。
とある町の廃墟となった教会。
そこにひとりの男がいた。
男の名はアダン。
冒険者パーティー・黒蜥蜴を束ねるリーダーのアダンであった。彼はこの教会を隠れ家のひとつとして利用しており、今回は彼の雇い主でもある人物とコンタクトを取るため、ここへやって来たのだ。
「これでよし」
アダンは教会にある一室に入ると、テーブルの上に大きな水晶玉を置くと、それに魔力を込め始める。すると、水晶玉は赤く変色し、やがてある人物を映しだした。それは恰幅のよい老人であった。
『それでは報告を聞こうか――アダンよ』
「はい。ガーネス様」
水晶玉に映しだされたのは
黒蜥蜴リーダーのアダンは、ガーネスの配下であり、彼の指示のもとで「裏」の仕事を行っていた。
その見返りとして、アダンはダンジョンの詳細な情報と、ガーネスが横流ししたさまざまなレアアイテムや武器を使い、攻略。さらに、
ガーネスは、そんなアダンへ、塔のダンジョン攻略を命じていた。
それを受けたアダンは、攻略において最大のライバルとなる霧の旅団を消滅させる作戦を立てていた。その際、偶然拾ったレックスという男とその仲間たちが歌姫マシロの連れ戻しに失敗した報告を受け、彼らを利用することを決めた。
レックスは霧の旅団の新メンバーである
おまけに、そのフォルトは仲間たちと共に長らく攻略されていなかった塔のダンジョンを見事に突破。そこに眠るお宝を手に入れたのだ。
『そうか……霧の旅団の若造に先を越されたか』
「も、申し訳ありません、ガーネス様」
声を震わせて謝罪をするアダン。
彼はその身をもって、ガーネスの恐ろしさを理解している。
だから、今回の失態で自分にいかなる罰が下されるか、気が気ではなかったのだ。
「連中を――霧の旅団を侮っていました。そのせいで、塔のダンジョンに眠る宝を奪われる形に……」
『分かっているならそれでいい。遅かれ早かれ、あそこはフローレンス家が手中に収めるだろうと思っていたからな。あそことは極力もめ事を起こしたくはない』
フローレンスが本格的にダンジョン経営に携わるようになれば、ガーネスでも迂闊に手は出せない。だから、その前にお宝だけでも回収しておきたかったのだ。
――しかし、ガーネスにはひとつ気になる点があった。
『……アダン。塔のダンジョンで発見されたお宝の正体について何か知っているか?』
「まったく情報はありません」
『何? それは妙だな』
「妙、といいますと?」
『あそこで得られる宝箱の解錠レベルは相当なもののはず。それを、誰にも気づかれずに持ち出せるとは思えん』
「で、では……」
『ヤツらはその場で解錠し、中身だけを持ち去ったのだろう』
「そ、そんな!
『そうだ。……これは、詳しく調べる必要がありそうだな』
水晶越しにガーネスの言葉と含みを持たせた視線を受け止めたアダンは、すぐに自分が取るべき次の行動を察する。
「霧の旅団について……詳しく調べます」
『うむ。ついでに、歌姫マシロも連れて帰れ。ヤツがいなくなってからシアターの売り上げが激減したからな』
「はっ!」
そこで、水晶から光が消える。同時にガーネスの姿も見えなくなった。
「霧の旅団……」
アダンは自分に恥をかかせた霧の旅団への憎悪を強めると、新たな任務を果たすため教会をあとにした。
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