第78話 休日の過ごし方【イルナ・マシロ編】
塔のダンジョンでの冒険が終わり、俺たちは本拠地へと戻って来た。
早速次のダンジョンに挑もうと思っていたのだが、
「フォルト、少しは休みなさい」
朝起きて、最初に出会ったイルナからそう告げられた。
「きゅ、急にどうしたの?」
「……まだ、体は万全じゃないでしょ?」
「っ!」
イルナは気づいていた。
塔のダンジョンに隠された宝箱。
それを解錠するため、俺は新しい力――
……けど、この力を使った際に発生する反動とでもいうべきか、とにかく肉体的な疲労がハンパじゃなかった。
みんなに心配かけないよう隠していたつもりだったんだけど……
「言っておくけど、みんな気づいているからね」
「うっ……」
バレバレだったのか。
まあ、昔からミルフィには「フォルトは嘘をつくのが下手だから」って言われていたけど、まさか他の三人にも見抜かれるなんて。
「……うん? イルナ、何を見ているんだ?」
その時、俺はイルナが何やらいろいろと書かれている数枚の紙に目を通していることに気づいた。
「ああ、これ? 物件情報よ」
「物件情報? もう本拠地は決まったのに?」
「パパはこのゾルダン地方がいたく気に入ったみたいで、かなり長期に渡って滞在することが濃厚なの。塔のダンジョンの件を通して、領主であるフローレンス伯爵からも気に入られているみたいだし」
「ふむふむ」
「だから、今後は霧の旅団それぞれの隊が別れて各ダンジョンのお宝を回収していくことになりそうなの。私たちにも、ダンジョン探索以外に伯爵から何かしらの依頼が舞い込んでくるかもね」
領主であるフローレンス伯爵からの直接の依頼か……。
もし本当にそんな依頼が来たら、気合を入れて取り組まないとな。
「じゃあ、今イルナが調べているのは……」
「みんなで一緒に暮らせる空き家がないか調べているのよ。ほら、ここを見つける前もいろいろと候補を決めていたじゃない? そこから絞り込めないかなぁって」
そのために、資料を引っ張り出してきたってわけか。
相変わらずの行動力……頭が下がるよ。
「……イルナ」
「ん? 何?」
「いつもありがとう。感謝しているよ」
「は、はあ!?」
イルナは大慌てで何やら連呼していたが、とりあえず俺の「感謝している」という言葉は伝わったようで何より。
その後、イルナからは大人しく体を休めるよう注意を受けた。
つまり今日一日を休日に当てろってことらしい。
――が、だからといって何もしていないのはちょっと気持ちが悪い。
せめて剣の素振りでもして体を動かそうと、龍声剣を手に裏庭へ出た。
すると、
「~~~~♪」
歌声だ。
優しくて柔らかな声なのに、どこか力強さも感じる。
声のした方へ歩きながら進んでいくと、
「やっぱりマシロだったか」
「! フォルトさん!?」
そこには歌の練習に精を出すマシロの姿があった。
「ご、ごめんなさい、うるさかったですよね……」
「そんなことはないよ。とても綺麗な歌声だった」
「あ、ありがとうございます」
照れ笑いを浮かべるマシロ。
だが、すぐにその表情に影が落ちた。
「私……ずっと歌うのが怖かったんです」
「怖かった?」
「はい。シアターに来てくださる人たちは喜んでくれるのですが……その背後にいる人たちは――」
そこで、マシロは声をつぐんだ。
何か、思い出したくないことを思い出してしまったのだろう。
「大丈夫だよ、マシロ」
「えっ?」
「ここにいる限り、俺がマシロのことを守るから」
「フォ、フォルトさん……」
「あ、俺だけじゃないな。きっとミルフィやイルナやジェシカ――そして霧の旅団のみんなでマシロを守るよ」
「はい!」
マシロに笑顔が戻った。
うんうん。
やっぱり悲しそうにしているよりも、笑った顔の方がいいな。
それから、俺は素振りをしつつ、マシロの歌の練習に付き合ったのだった。
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