第72話 初めての壁
天井にあったあの模様は文字ではない。
俺はその可能性を証明するため、一階のダンジョン食堂へと向かった。
目的はバラクさん――の、使い魔のゴーレム。
「ゴーレムを? それは構わないが……どうするんだ?」
「もしかしたら、この塔の謎を解明できるかもしれないんです」
「!? 本当か!?」
手にしていたフライパンを床に落としてしまうほどの衝撃を受けたバラクさん。
直後、穏やかだった目つきがキッと細められた。バラクさんの失いかけていた冒険者としての心に火がついたのだ。
「フォルト、俺も一緒に行っていいかな」
「もちろんです! 行きましょう!」
バラクさんは長らくこの塔を攻略しようと頑張っていたんだ。その結末を見届けたいという気持ちは分かる。
というわけで、俺たちのパーティーにバラクさんと使い魔のゴーレムを加えた五人で、いよいよ最後の謎解きを行う。
三階に戻ってくると、隠し部屋を発見した時のように、ゴーレムには足場を作ってもらった。どこへ作ったかというと――天井へ近づくための足場だ。
「あの文字を間近で見るってこと?」
「ああ」
イルナの質問に答えた瞬間、足元が揺れて地面がせり上がってくる。そのまま一気に天井にある文字へ近づくと、
「「「「「「あっ!?」」」」」」
俺たちは真実を知る。
天井に刻まれた文字に見えたそれは、よく見ると窪みになっていたのだ。
「やっぱり……」
「やっぱりって……どういうことなの、フォルト」
ミルフィの疑問に答える意味も込めて、俺はあの鍵を取りだす。すると、その鍵は眩い輝きを放っていた。
「!? か、鍵が反応している!?」
「どういうことなんですか!?」
ジェシカとマシロは驚き、イルナとミルフィは呆然としている。
――ただひとり、バラクさんだけはすぐに理解したようだ。
「なるほど……
「「「「鍵穴!?」」」」
女性陣の声がピッタリと重なった。
――そう。
この部屋は何もなかったわけじゃない。
塔の三階……個々の存在そのものが、バカデカい宝箱だったってわけだ。
「じゃあ、フォルトの鍵でここを開けることができたら!?」
「お宝ゲットってことだな。――やってみるか!」
俺はいつもと同じように鍵を使う。
これまで、どんな解錠レベルの宝箱だって開けてきた鍵だ。
サイズはとんでもなくデカいが、きっと開けられる。
――そう思っていたが、
「あ、あれ?」
どれだけ魔力を込めようと、鍵に変化はなし。
何も変化は起きなかった。
「ど、どういうことなの!?」
「鍵穴という考えが間違っていたのでしょうか……」
「いや……違う」
ジェシカの考えを否定したのはバラクさんだった。
……さすがは現場を離れて長く経っていても、霧の旅団の創設メンバーを務めたベテラン冒険者だ。バレているらしい。
「鍵が反応しているということは、宝箱であることに間違いはない。それでも開けられないというのは今の彼の――フォルトのレベルでは開けられないということさ」
そうなのだ。
だが、そうなると必然的にこの可能性が浮上する。
「もしかしてこの宝箱……解錠レベルが四ケタってこと?」
ミルフィの言葉に、俺は力なく「ああ」とだけ返す。
初めて出現した、解錠不可能の宝箱。
一体どうすればいいんだ……
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