第68話 塔の真実

 ダンジョンの塔三階――そこには、驚くべき光景が広がっていた。

 それを目の当たりにした俺たちは硬直。

 しばらく動けずにいたのだが、


「どういうことよ、これ!」


 怒りの感情が混じったイルナの声で、ハッと我に返った。


「三階には何もないじゃない!」


 不満をぶちまけるように言い放つイルナ。

 そうなのだ。

 ようやくたどり着いた三階には何もなかった。


「そんな……」


 何もない空間にたたずむ俺たち。

 少し時間が経ち、落ち着きを取り戻してからもう一度周囲を見渡す。

 異常なまでの天井の高さから、恐らく、一階と二階を除いた塔の残りすべてはこの三階部分ってことになりそうだな。


 しかし、その三階部分は――本当に何もない。

 ただただ広い空間があるだけで、どうしようもなかった。


「……もしかしたら」


 この状況下で、ジェシカは何かを思いついたようだ。


「何か分かったのか?」

「分かったというか……私たちよりも先に誰かがここへたどり着き、お宝を探しだして持ち帰ったのではないでしょうか」

「あぁ……」


 よくあるパターンだ。

 というか、どうしてそれを考慮しなかったんだ。

 これだけ大きな塔だ。

 見つからない方がおかしい。

 きっと、バラクさんがここに居着く前に、お宝は発見され、持ち出されてしまった――そう考えるのが妥当だ。


「なんだか拍子抜けね」

「えぇ……」

「残念です……」


 イルナ、ミルフィ、マシロの三人は大きく落胆している。俺だってそうだが、きっと一番落胆するのはバラクさんだろうな。この塔の謎を解くのに、人生を注いでいるって感じだったし……まあ、今はダンジョン食堂の料理人になっているけど。


 ……ともかく、念のために手分けして何かあるのか、探してみないとな。

 というわけで、俺たちは散り散りとなって周辺を探索してみる――が、怪しい点は何ひとつ発見できなかった。


「やっぱり……ジェシカの言う通りだったみたいだな」


 この塔には何もない。

 調査の結果、俺たちはそう結論付けた――が、


「…………」


 俺は違和感を抱いていた。

 本当に、ここには何もないのか?

 ――いや、あれだけみんなで調べたのにないのだから、ここにはない……そのはずなのに、なぜか納得できなかった。


 まだ、この塔には何か秘密が隠されている。

 そう思えて仕方がなかった。


「フォルト、これからどうする?」

「……一旦、食堂へ戻ろうか」


 ここで考えても始まらない。

 もう時間も遅いし、今日のところはこれで引きあげよう。

 

 ◇◇◇


 食堂へ戻った俺たちは、バラクさんに調査結果を報告。


「そうか。まあ……その可能性もないわけじゃないと思っていたからなぁ」


 バラクさんは意外とサッパリした反応だった。

 だが、その顔には明らかに落胆の色が窺える。


「パパたちが戻ってきたら、この塔のダンジョンともお別れね」

「そうですねぇ」


 イルナとジェシカの言う通り、もはやここに留まる理由はない。

 けど……やっぱり諦めきれないな。


「……悪い。俺は明日もう一度だけ、塔へ行ってみるよ」


 もうちょっとだけ、あの塔を調べてみることにしよう。

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